2012年01月03日
『誕生日の夜』 ②
しおりちゃんは、さっきから、お父さんに聞こうかどうか迷っていることがあります。
でも、それがなかなか言い出せません。
そのうち保育園に着いてしまいました。
「じゃあ、いい子でいるんだぞ。なるべく早くお迎えに来るからな」
「……」
しおりちゃんは、もう一度お父さんがケーキのことを聞いてくれないかと待っているのですが、言ってくれないのでご機嫌が少しななめになってしまいました。
「どうしたんだ? しおり。おなかでも痛いのか?」
もう我慢ができません。
ついに、しおりちゃんは声を出して言ってしまいました。
「どんなケーキを買ってくるの?」
「しおりは、どんなケーキがいいんだい? しおりの誕生日なんだから、しおりの好きなケーキを買ってこよう」
お父さんの目が、やさしくほほ笑んでいます。
安心したしおりちゃんは、いつかお友だちの誕生会で食べたケーキの話をしました。
「あのね、まるいケーキ。イチゴがのった、まるいケーキを切って食べるの。三角のじゃ、ダメだよ!」
するとお父さんは、笑いながら言いました。
「デコレーションケーキのことだな。わかった、わかった。まるいケーキだな。よし、約束だ」
「うん、ぜったい約束だよ」
しおりちゃんは、元気にお父さんと、ゆびきりをしました。
駅のホームは、会社や学校へ行く人たちで、とても混雑していました。
みんな電車が来るのを一列に並んで待っています。
なのに、お父さんだけは、ひとりベンチに座っています。
そして、ときどき 「ふーっ」 と、大きなため息をついています。
実は、お父さんの勤める会社は、倒産してしまったのです。
いまは失業保険というお金をもらって、生活をしています。
でも、そのお金も今月で入らなくなってしまうのです。
新しい仕事は、まだ見つかっていません。
「どうしたらいいだろう」
お父さんは、また大きなため息をついて、電車を一本見送ってしまいました。
<つづく>
Posted by 小暮 淳 at 14:07│Comments(2)
│誕生日の夜
この記事へのコメント
昔昔、おやじがクリスマスにデコレーションケーキを買って来てくれました。
家族でナイフで切って大きいの小さいのと言い合いながら食べました。
あれが最初のデコレーションケーキだったと思います。
デコレーションケーキを安く買えるのは、クリスマスの次の日。
お父さんは、クリスマスの次の日にタイムスリップして安くデコレーションケーキを買って来ましたなんてストーリーは無いですよね。
真面目な絵本を茶化してゴメン。
家族でナイフで切って大きいの小さいのと言い合いながら食べました。
あれが最初のデコレーションケーキだったと思います。
デコレーションケーキを安く買えるのは、クリスマスの次の日。
お父さんは、クリスマスの次の日にタイムスリップして安くデコレーションケーキを買って来ましたなんてストーリーは無いですよね。
真面目な絵本を茶化してゴメン。
Posted by ヒロ坊 at 2012年01月03日 22:34
ヒロ坊さんへ
爆笑してしまいました(ゴメン)
でも、しおりちゃんの誕生日は、クリスマスの翌日ではなかったのですよ。
もっともっと過酷な現実が、お父さんを襲います。
<つづき>を、ご期待ください。
爆笑してしまいました(ゴメン)
でも、しおりちゃんの誕生日は、クリスマスの翌日ではなかったのですよ。
もっともっと過酷な現実が、お父さんを襲います。
<つづき>を、ご期待ください。
Posted by 小暮 at 2012年01月04日 01:32