2012年01月05日
『誕生日の夜』 ③
ハローワーク(職業安定所) は、いつ行ってもたくさんの大人たちで、あふれています。
どの人も一生懸命に、仕事を探しにやってきます。
お父さんも毎日必ず、ここに来ます。
そして、求人票をはしから一枚一枚ていねいに目を通していきます。
お父さんは、印刷所の技術者でした。
でも、今日も印刷所の求人はありません。
ここでもお父さんは、ため息を大きく一つつきました。
昼どきの公園は、太陽の光をたっぷり浴びて、ポカポカとぬくまっています。
お父さんは、そのぬくまった日だまりのベンチに腰をおろして、パンと牛乳でお昼をとっていました。
「ねえねえ、お母さん、見てて!」
すべり台の上で、女の子が手をふりました。
砂場のところで、若いお母さんがこたえるように、手をふっています。
ふと、お父さんは、しおりちゃんのお母さんのことを思いました。
お母さんが隣町の大きな病院に入院して、もう半年近くになります。
病気のほうは少しずつ良くなっていますが、長引く入院には、お金がたくさんかかります。
しおりちゃんとお父さんが、休みの日に病院へお見舞いに行くと、いつもお母さんは、
「ごめんね、しおり。さみしい思いをさせて。
ごめんなさい、お父さん。早くよくなって、私も働きに出ますから・・・」
と、二人にあやまります。
来週は、そんなお母さんの最後の手術です。
「よし、がんばるぞ!」
お父さんは、そう自分に言うと、勢いよくベンチから立ち上がりました。
<つづく>
Posted by 小暮 淳 at 18:46│Comments(2)
│誕生日の夜
この記事へのコメント
今回のストーリーとの共通点を又、見つけました。
実兄は、印刷会社の技術職で、会社は倒産しました。
ストーリーと違うのは、兄の会社は会社更生法により、再建され今でも働いています。
お母さんの手術がどうなるか心配です。最後という言葉が気にかかります。
実兄は、印刷会社の技術職で、会社は倒産しました。
ストーリーと違うのは、兄の会社は会社更生法により、再建され今でも働いています。
お母さんの手術がどうなるか心配です。最後という言葉が気にかかります。
Posted by ヒロ坊 at 2012年01月05日 19:26
ヒロ坊さんへ
毎回、コメントありがとうございます。
ストーリーは、いよいよ中盤にさしかかります。
仕事のないお父さん、病気で入院しいているお母さん、そしてデコレーションケーキを待ちわびるしおりちゃん・・・
家族の絆を守るため、お父さんは秘策に出ます。
が ・・・
毎回、コメントありがとうございます。
ストーリーは、いよいよ中盤にさしかかります。
仕事のないお父さん、病気で入院しいているお母さん、そしてデコレーションケーキを待ちわびるしおりちゃん・・・
家族の絆を守るため、お父さんは秘策に出ます。
が ・・・
Posted by 小暮 at 2012年01月06日 01:02