2013年02月25日
あなたは、だんだん買いたくなる~!
「ごちそうさま」「おいしかった」「また来ます」
そんな言葉がうれしくて、何十年とフライパンを握り続けている店主がいます。
世の中の物価が上がっても、料金据え置きで、黙々と料理を作るガンコおやじ。
好きですねぇ~!
「金じゃ、ねーんだよ。客の喜ぶ顔が見たいだけさ」
なーんて、シビレテしまいます。
モノを作るっていうことは、そういうことなんですね。
そのモノを買った人の喜ぶ顔を見るために、作り続けているんです。
よーく、分かります。
僕も、モノを作って生きているはしくれですから。
でもね、ライターって職業は、なかなか商品を買ったり、喜んだりする瞬間に立ち会えないんですよ。
「新聞の連載、いつも読んでいます」 って言われても、すでに過去形です。
「本、持ってます」 と言われても、買った現場は見ていない。
だから、無性に “ライブ” にあこがれてしまうんです。
僕が音楽活動を続けているのも、お客さんの反応が直に届く “ライブ” 感に魅せられているからかも知れません。
1997年11月。
僕は、初のエッセー 『上毛カルテ』(上毛新聞社) を出版しました。
うれしさのあまり、自分の本の売れ行きを確かめに、足しげく本屋へ通ったものです。
「あっ、昨日より何冊減っている!」
な~んてね。
どんな人が買っていくんだろう?
そう思ったら、買っていく瞬間が見たくて、居ても立ってもいられません。
何時間も本屋でねばったことがありましたが、その時はついに “読者” と会えませんでした。
それから12年後。
ついに、その瞬間は、やって来ました!
偶然にも、市内某書店に立ち寄ったときのこと。
『ぐんまの源泉一軒宿』(上毛新聞社) を手にとって眺めている男性と遭遇。
なかなか本を置きません。
まさか、この人は、全部読んでいるんじゃないだろうな~?
と思えるほど、食い入るように眺めています。
僕が、グルリと店内を一周して戻ってきても、まだ読んでいます。
これは、やばい!
こんだけ立ち読みする人は、買わないかもしれない。
こうなったら、念力を送るしかありません。
<さ~、あなたはだんだん、その本を持ってレジへ向かいたくなる~>
すると、どうでしょうか!
本当に、すーっと歩き出して、レジへと向かって行ったではありませんか!
思わず、「ありがとうございます」 と声を出しそうになってしまいました。
うれしさのあまり、その人がレジを済ませるまで、書棚の陰からズーッと眺めていましたよ。
歳はいくつなのかな? お住まいはどこなのかな? 温泉が好きなのかな? って。
しまいには、「あ、僕が著者です。お買い上げありがとうございます」って、声をかけようかと思ったくらいです。
それくらい、あのときは感動しました。
そして、今日。
ふらりと、同じ書店に立ち寄りました。
あの日と違い、今では店内の2カ所に僕の本が置かれています。
郷土本コーナーと旅本のコーナーです。
その後、4冊の本を出していますから、丸々1つの棚が僕の本で埋め尽くされていて、遠くからでも目立ちます。
近づいてみると、初老の婦人が 『あなたにも教えたい 四万温泉』(上毛新聞社) を手にとって見ています。
あの日と、同じ光景であります。
僕は、また念じ始めました。
<さ~、あなたはその本を持ってレジへ向かいたくなる~>
しかし残念ながら、2度目の奇跡は起こりませんでした。
婦人は、本を元の棚に置くと、その場から離れてしまいました。
でも、いいんですよ。
手にとっていただいただけで。
ライブで、読者に触れられたんですから・・・
でもね、
<さ~、あなたは、もう一度今の場所に戻り、さっきの本が買いたくなる~>
と、念力を送っておきました。
さて、あの婦人は、その後、僕の本を買いに戻って来たのでしょうか?
Posted by 小暮 淳 at 20:49│Comments(0)
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