2013年04月21日
見えない龍
毎週金曜日は、“おじいさんといっしょ” の日です。
一昨日も、オフクロがデイサービスへ出かけたため、朝からオヤジの面倒を見に、実家へ行きました。
「子守り」 ならぬ、「親守り」 であります。
ところが一昨日は、強い北風が吹き荒れる最悪の天気。
オヤジの大好きな “散歩あそび” は、できそうにありません。
だって、無理して出かけたら、骨と皮だけのオヤジなんて、吹き飛ばされてしまいますもの。
「じいさん、今日は風が強くて、散歩は無理だね」
「そうか・・・」
と、淋しそうであります。
頭は少々ボケていますが、体は五体満足健康な老人です。
一日中、家の中に閉じ込めておくのは、酷というもの。
「だったら、ドライブしに行こうか?」
と訊けば、
「行こう!行こう!」
と、大はしゃぎ。
「じぁ、出かける用意して」
「うん」
と言いながら、コタツから立ち上がりました。
目指したのは、赤城山麓にある 「中之沢美術館」。
今月はじめに、案内状が届いていたことを思い出したからです。
「中之沢美術館」 は、友人で彫刻家の三谷慎さんら数名の芸術家が集まり、1991年に開設された森の中の美術館です。
作家たちは、隣接する自宅兼アトリエで生活しながら、創作活動を続けています。
年に数回の企画展を開催し、代表である三谷さんの作品も常設されています。
「あ~ら、お久しぶりですね」
と、三谷さんの奥さんで、館長のえり子さんが声をかけてくださいました。
オヤジのことも覚えていてくれたようです。
「なんだか、来たことがあるような気がするな~」
と言いながら、五角形をした館内をグルリと見渡すオヤジ。
「来たこと、あるさ。ね、えり子さん」
「ええ、もう、だいぶ前でしたけれどね」
「そうか・・・、来たことがあるんだ・・・」
そう言って、館内を歩き出しました。
コツ、コツ、コツ、コツ、コツ ・・・・
広い空間に、オヤジの突く杖の音だけが、響き渡ります。
コツ、コツ、コツ、コツ、コツ ・・・・
現在、開催されているのは、『ジム・ハサウェイ 作品展』。
東京在住のアメリカ人画家です。
ハサウェイ氏は、約20年前から東京の山手線を 「墨」 を使って描いています。
なぜ、山手線を描くのか?
「山手線それ自体が見えないから。東京の誰もが山手線の電車に乗るのに、誰もそれ自体を見ていないから。世界で一番お客の多い鉄道線なのに、それ自体はほとんど見えないから」
と、氏は言います。
今回の展示会では 「山手線29景」 に、新たに全長11メートルの 「龍」 が館内の壁にグルリと一周描かれています。
氏には、山手線が、大きな大きな龍に見えるんですね。
「じいさん、何が描かれているか分かるかい? 龍だよ、龍!」
「おお~、龍かい。大きいなぁ~」
「大きいだろう」
「ああ、大きい」
と言うと、コツ、コツ、コツと杖の音を響かせながら、展示室を出て行こうとします。
「じいさん、どこへ行く?」
「トイレ・・・」
「おしっこ、引っかけるなよ! 一歩、前だからな!」
と、ここが美術館であることを忘れて、ついつい大声を出している僕。
それを見て、やさしく微笑んでいるえり子さん。
三谷さんに、よろしく伝えてください。
また、来ますね。
今度は、オヤジ抜きで、ゆっくり作品を鑑賞しに・・・。
『ジム・ハサウェイ 作品展』
●会期 4月14日(日)~6月30日(日)
11:00~16:00 金・土・日・祝祭日開館
※5月25日~27日、6月2日は開館
※他の平日観覧は要予約
●料金 一般 500円 小中学生 300円
●会場 中之沢美術館
群馬県前橋市粕川町中之沢249-14
TEL.027-285-2880
Posted by 小暮 淳 at 21:39│Comments(0)
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