2014年01月12日
生きてりゃいいさ
つかの間の帰宅です。
またまた今週も、昨日から実家に泊まり込んで、両親のヘルパーをしています。
毎度、お馴染みの、口は達者だけど足が不自由なオフクロと、足は達者だけど頭が不自由なオヤジの “おさんどん” です。
まー、3年目にもなると慣れてはきましたが、買い物に行ったり、料理を作ったり、床の用意をしたり、病院の送り迎えをしたり、散歩のお供をしたりと、老人の介護はやることが多くて、手を抜けないのが悩みのタネであります。
町やスーパーで、元気なお年寄りを見かけると、ついつい 「ああ、いいなぁ~」 と、羨望のまなざしで見てしまいます。
実家の前の通りをはさんだ斜め向かいに、Mさんという老人が暮らしています。
Mさんは、御年93歳!
いまだに現役で仕事をしています。
自宅兼工場で、たった1人で毎日、機械の修理をしています。
目も耳も健康で、なななななーんと! 機械を軽トラに積んで、自分で運転して納品に行ってしまうのです。
「うちのオヤジも、あのくらい元気だったらいいんだけどなぁ」
と、いつもアニキと、Mさんを見かけるたびに話しています。
「おお、誰かも思ったら小暮さんじゃないか? バカにやせちゃって、大丈夫かい?」
僕が、オヤジの手を引いて散歩へ出かけようと通りに出たときです。
軽トラから降りてきたMさんが、声をかけてきました。
オヤジは、「誰だい? 誰だい? 分からないよ」 の一点張りです。
まあ、無理もありません。
目も良く見えないし、耳もほとんど聞こえないのですから。
「やだねぇ、ボケちゃったのかい? しっかりしてくれよ。あんたはオレより4つも若いんだからさ!」
おっしゃるとおりです。
でもね、人間には個体差というものがあるんですよ。
「おじさんは、元気ですね。全然、昔と変りません」
と言うと、
「なに言ってんだい、見てのとおりの老人だよ。ただね、オレは小暮さんみたいに若い頃、頭を使わなかったからさ。だから今でも使えるんだよ」
そう言うと、かくしゃくとした足取りで、工場の中へ入って行きました。
「今のは、誰だったんだい?」
「Mさんだよ。93歳だって。元気だね」
そう言うと、オヤジは、急に悲しい顔をするのでした。
「どうした? じいさん」
僕の問いに、オヤジは立ち止まり、頭をたれて、こう言ったのです。
「すまないね」
年上のMさんに、威勢をつけられて、いじけてしまったようです。
オヤジは、オヤジなりに、息子たちに面倒をかけていることを気にしているようです。
「さ、じいさん。散歩へ行こうよ。今日は、どこまで歩こうか?」
「どこまでだって、いいさ」
僕は、思いっきり抱きしめるようにオヤジの腕を取り、北風の吹く町を歩き出しました。
生きてりゃいいさ
Posted by 小暮 淳 at 20:16│Comments(0)
│つれづれ