2014年01月20日
おじいさんといっしょ⑤ 「長生きする理由」
今日は風もなく、おだやかな一日でした。
ならばと、朝から実家を訪ね、オヤジの遊び相手をしてやることにしました。
「おーい、じいさん! 生きてるか?」
声をかけても返事がありません。
「お父さんは、こたつで寝ているよ」
と、代わりにオフクロが返事をしました。
どれどれと、部屋を覗き込むと、目をつむったまま座椅子にもたれ、こたつに足を突っ込んでいるオヤジの姿がありました。
「寝ているとも限らないだろう。死んじまっているかもしれないぞ!」
と、近づくと、うっすらと目を開けました。
「生きてるんかい、じいさん?」
「ああ、生きてる」
「散歩でも行くかい?」
と声をかけると、ビクッと体を起こして、
「行こう!」
と元気に、こたつから抜け出したのであります。
まったくもって、我が家の愛犬マロ君と同じです。
マロも 「散歩」 という言葉に反応して、尻尾を振りながら部屋中を駆け回りますもの。
「天気はいいけど、やっぱり空気は冷たいね」
そう言って、杖を突きながら、住宅街の道を歩き出しました。
「この店、覚えているかい? 兵六(ひょうろく) さん」
兵六は、老舗の団子屋さんです。
今でも、みたらし団子が1本、50円!
子供の頃のおやつとしては、かなり贅沢(ぜいたく)品でしたが、ときどきオフクロがお使い物のついでに数本買ってくれた想い出があります。
「兵六さんか! 知ってるさ。高峰三枝子が疎開してた家だろ」
と、一足飛びに戦時中の話しになってしまいました。
女優の高峰三枝子は、僕と同じ幼稚園を出た郷土の大先輩です。
たぶん、この団子屋が親戚か知人の家だったんでしょうね。
昔、店内に写真が飾られてあった記憶がよみがえってきました。
それから僕らは、書店に入り、デパートに立ち寄り、バスに乗って帰ってきました。
バス停からの帰り道、僕とオヤジは、こんな会話をしました。
「じいさんは、何歳になるんだっけ?」
「わかんない」
「わかんないじゃなくて、自分の歳なんだから思い出しておくれよ」
「……、90歳かな?」
「そう、今年、誕生日が来ると満で90歳になるんだろ! “卒寿” のお祝いをしなくっちゃね」
「日本人男性の平均寿命が79歳だから、じいさんは長生きだね」
「そうだな」
「どうして、長生きなんだい?」
僕は、ちょっぴり意地悪な質問をしてみました。
「どうしてだろうなぁ……」
と、立ち止まって考え込んでしまいました。
「そっか、オレとアニキのために長生きしてくれているんだよな?」
「……」
「だって死んじゃったらさ、親孝行ができなくなってしまうもんな」
そう言うとオヤジは、
「ハハハハハーーー!」
と大声を上げて、笑い出しました。
そして、ひと言、言いました。
「そうかもしれないね」
でも、これが長生きをしている理由の正解のような気がします。
アニキは親に迷惑をかけないイイ子でしたが、僕は10代、20代と、親不孝の限りを尽くしてきたダメ息子でしたからね。
こうやって今、親孝行が出来ることが、正直ありがたいのです。
“長生きとは、親孝行のチャンスなり”
「じいさん、ありがとうな」
「そうか、そうか」
と言って、うれしそうに笑ってくれました。
Posted by 小暮 淳 at 17:52│Comments(0)
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