2016年11月20日
爪を切る②
伯母が亡くなりました。
91歳でした。
オヤジは7人きょうだいの下から2番目。
4人の姉と兄が1人、弟が1人いました。
3年前に伯父が死んだ時、
「オレ、1人になっちゃったよ。姉さんも兄ちゃんも弟もいなくなっちゃった」
と、落ち込んでいたことを思い出します。
亡くなった伯母は、その伯父の連れあいであります。
これで、14人いた仲良しきょうだい(義兄弟、義姉妹を含む) は、たった2人だけになってしまいました。
うちの両親です。
と、いうことで、昨日は伯母の告別式でした。
葬儀には、アニキとオヤジが参列することにし、僕は実家に残り、オフクロの面倒を看ることになりました。
「ほら、じいさん。こっちへ来て! 着替えるよ」
「どこへ、出かけるんだい?」
何がなんだか分からない、認知症のオヤジに喪服を着せるのは、ひと苦労です。
「ほれ、そこに座って! 靴下を履き替えるからね」
と、それまで履いていた靴下を脱がせて驚きました。
足の爪が、伸び放題に伸びています。
「あんちゃん(僕はアニキのことを、そう呼びます)、デイ(サービス) じゃ、爪を切ってくれないのかね?」
「いや、切ってくれてるはずだけど、もしかしたら、手の爪だけかもしれないな」
「爪切り、どこだっけ?」
パッチン、パラパラ、パッチン、パラパラ
切るそばから爪が粉のように砕け散ります。
「あんちゃん、これ、見て」
「ああ、カルシウム不足だな。歳だから仕方ないけど」
パッチン、パラパラ、パッチン、パラパラ
オヤジの顔を見ると、うれしそうに微笑んでいます。
「じいさん、良かったな。息子に爪を切ってもらえて」
「ああ、オレは幸せだ。日本一の幸せだよ」
パッチン
「痛い!」
「ごめん。もう終わりにするよ」
ネクタイを締めて、革靴を履いて、お出かけ用のステッキを突いて、オヤジはアニキに手を引かれながら斎場へと向かいました。
あと何回、オヤジの爪を切ってやれるのでしょうか?
でも、そんな感傷に浸る間もなく、2人を見送った後、僕はオフクロのオムツを交換するのでした。
Posted by 小暮 淳 at 12:09│Comments(0)
│つれづれ