2018年04月01日
兄弟問答
「人間は生きたように死んでいくんだ」
「なんだい、それ?」
「たぶん、有名な哲学者の言葉だったと思う」
僕とアニキの介護生活も、ほぼ10年になります。
オヤジは今年9月で94歳になります。
オフクロは今年5月で91歳になります。
オヤジは認知症を患っていて、オフクロは寝たきりの生活を送っています。
アニキも僕も実家を出て所帯を持ったため、10年前までは両親だけで暮らしていました。
現在は、ウィークデイはアニキが東京から来て、週末は僕が両親の介護をしています。
そんな生活も、いよいよ正念場を迎えています。
「やっぱり、2人は無理だな」
アニキから今後のことで相談があるからと、呼び出されました。
「オフクロは仕方ないとしても、オヤジは在宅で面倒を看るしかない」
今年になってオフクロの老衰が悪化し、通常の食事ができなくなったために入院をさせました。
現在、だいぶ容態は回復してきましたが、まだ在宅の許可は出ていません。
先月、オヤジも食事を摂らなくなってしまったため、一旦は入院しましたが、すでに回復して実家にもどっています。
「オヤジもオフクロも国民年金だからな。2人をいっぺんに施設に入れる余裕はないよ」
「分かった。オヤジだけでも2人で看よう」
「すまないが、協力してくれ」
「ここに来て、人生のツケが回って来たっていうことか」
僕は、なぜかこの時、童話の 「アリとキリギリス」 の話を思い出していたのです。
オヤジは、若い頃から根っからの自由人でした。
組織には属さず、唯我独尊で、思うがままに生きてきた人です。
そんなオヤジに育てられたアニキも僕も、“カエルの子はカエル”。
迷うことなく、フリーランスの道を選んで生きてきました。
でも、老後のことまでは考えていなかった……
それで、つい僕は、“ツケが回って来た” なんて言ってしまったのです。
「オレは、そうは思わないよ」
アニキは振り返ると、ちょっぴり険しい顔になり、僕に、こう問いかけました。
「じゃあ、ジュンよ。今、あの灼熱のインドを歩けるか?」
なんのことを言っているのかといえば、25年前に兄弟で、バックパッカーの旅をしたときのことを言っているのです。
その前後もアニキはアメリカ大陸や東南アジアへ、僕は中国とベトナムを旅しました。
もちろん2人とも、結婚はしていたし、子供もいました。
それでも自由に世界を旅することができたのは、互いにフリーランスという生き方を選んだからにほかなりません。
「だね。この歳になったら、無理だよ。体力的に不可能だ。気力もないかもしれない」
「だろう。だから “金と時間” ができるのを待っていたら、できないことが人生には、たくさんあるんだ」
「でも、オヤジは、それをしてきた」
「そうさ、だから、ちっともツケなんて回ってきてはいないんだよ」
人間は生きてきたように死んでいく
オヤジは、僕らに生きざまを見せてくれたように、今、死にざまを見せようとしているのかもしれませんね。
Posted by 小暮 淳 at 12:28│Comments(0)
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