2022年03月16日
アザラシの赤ちゃんと雪の妖精
小原玲という名前は知らなくても、かわいいアザラシの赤ちゃんの写真を見たことのある人は、多いのではないでしょうか?
享年60歳。
昨年11月、モモンガを撮るために出かけた網走で病に倒れた写真家です。
小原さんは東京都の出身。
幼稚園から高校までを群馬県で過ごしました。
彼の写真家としての原点は県立前橋高校時代。
同級生や先生たちの日常の様子をカメラに収めました。
その中の一枚の写真が人生を変えました。
出版社のコンテストに応募した 「休み時間」 というタイトルの作品。
昼休みに黒板に向かって先生と議論する “優秀な生徒” と、アダルト雑誌を広げてニヤニヤしながら見る “普通の生徒” を対比させた写真が、グランプリに輝きました。
これが写真家になることを決意させたといいます。
プロになり、週刊誌のカメラマンとして数々のスクープをものにしました。
田中角栄元首相の病室、ロス疑惑の容疑者逮捕の瞬間、御巣鷹山で墜落した日航機の生存者救出……。
フリーに転じると 「戦場カメラマン」 になり、湾岸戦争やソマリア内戦など最前線で活躍しました。
1989年、北京の天安門広場で民主化を訴える学生らを人民解放軍が鎮圧した天安門事件。
彼が写した戦車の前で手をつなぐ学生たちの写真は、米国 「LIFE」 のザ・ベスト・オブ・ライフに選ばれました。
皮肉にも、これが報道写真家を辞めるきっかけになったといいます。
「1カ月間、学生たちと夜通し語り合った。彼らは非暴力を貫いた。あの写真は興奮した仲間が暴走しないように手を繋いだ姿だった」
(前橋新聞 「me bu ku」 創刊3号より)
なのに紙面では、“学生たちを襲う戦車” という構図にされていました。
彼は、「編集者の思惑で意図が変えられたことに怒りと悲しみを覚えた」 といいます。
「何でこんなことをしているのだろう」
悲しみの写真ばかり撮ることに嫌気がさした彼は、一転、動物写真を撮り出しました。
流氷の上で寝転ぶアザラシの赤ちゃん。
つぶらな瞳の愛くるしい表情は、一躍、見る者の心をとらえました。
それからの活躍は、周知のとおりです。
シロクマ、プレリードッグ、マナティ……
国内ではホタルやモモンガにシャッターを向けました。
なかでも “雪の妖精” とも呼ばれるシマエナガの写真集は、アザラシの赤ちゃんに並ぶ人気者となりました。
そんな小原玲さんの遺作展が現在、開催中です。
生前、彼は 「喜びや幸せの写真を撮ることができた前橋が自分の 『原点』 だ」 と言っていたそうです。
その言葉を聞いた高校時代の同級生たちが、今回の写真展を主催しました。
僕も昨日、行って来ました。
何を、どう感じるのか?
ぜひ、一人でも多くの人に観ていただきたい写真展です。
写真展 『小原玲 最後の伝言』
●会場/複合施設 「アクエル前橋」 2階 (JR前橋駅前)
●会期/開催中~4月10日(日) 10時~18時 入場無料
●主催/前橋高校54会有志
※3月27日(日) 10時半~、小原さんの妻で作家の堀田あけみさんのトークショー開催。
Posted by 小暮 淳 at 11:22│Comments(2)
│ライブ・イベント
この記事へのコメント
マロパパ先生
そうだったのですね・・・
動物写真家の小原さんしか印象になかったので、
戦場の写真などの経緯は、まったく知りませんでした。
もちろん、優秀な生徒とエロ本見てる生徒の写真も知りません!
ひとに歴史あり、ですね。
残念ですが、作品は永遠ですね。。
ムク
そうだったのですね・・・
動物写真家の小原さんしか印象になかったので、
戦場の写真などの経緯は、まったく知りませんでした。
もちろん、優秀な生徒とエロ本見てる生徒の写真も知りません!
ひとに歴史あり、ですね。
残念ですが、作品は永遠ですね。。
ムク
Posted by ムク at 2022年03月16日 13:18
ムクさんへ
実は僕も小原さんのことは、動物写真家としてしか知りませんでした。
また前橋に住んでいたこと、奥様が作家の堀田あけみさんだったことも、今回の写真展を報じる新聞記事で知りました。
作品を見て、つくづく惜しい人を亡くしたと思いました。
でも作品は残る!
ムクさんの言う通りです。
実は僕も小原さんのことは、動物写真家としてしか知りませんでした。
また前橋に住んでいたこと、奥様が作家の堀田あけみさんだったことも、今回の写真展を報じる新聞記事で知りました。
作品を見て、つくづく惜しい人を亡くしたと思いました。
でも作品は残る!
ムクさんの言う通りです。
Posted by 小暮 淳
at 2022年03月16日 22:44
