2024年08月29日
湯宿温泉 「ゆじゅく金田屋」⑥
<湯の宿温泉まで来ると私はひどく身体の疲労を感じた。数日の歩きづめとこの一、二晩の睡眠不足とのためである。其処(そこ)で二人の青年に別れて、日はまだ高かったが、一人だけ其処の宿屋に泊まる事にした。>
(『みなかみ紀行』 より)
大正11(1922)年10月23日。
歌人の若山牧水は、法師温泉の帰り道、湯宿(ゆじゅく)温泉 (みなかみ町) に投宿しています。
著書 『みなかみ紀行』 の中では宿名は記されていませんが、金田屋であります。
金田屋には、今でも牧水が泊まった蔵座敷が残されています。
初めて僕が、金田屋に泊まった晩。
5代目主人の岡田洋一さんと、その蔵座敷で酒を酌み交わしました。
もう、それだけで牧水ファンとしては感動の極みなのですが、岡田さんは、さらにサプライズを用意してくださっていました。
アユの甘みそ焼き、通称 「牧水焼き」 です。
岡田さんの話によれば、その晩、牧水はアユ釣り名人と言われた祖父が釣ってきたアユに舌鼓を打ったといいます。
そして、あまりの美味しさに、もう1尾、おかわりをしたそうです。
このことは 『みなかみ紀行』 には記されていません。
なので、知る人ぞ知るエピソードとして、僕は自分の著書 『みなかみ18湯 【下】』 に書かせていただきました。
今回訪れたのは、高崎市内で配布されているフリーペーパー 「ちいきしんぶん」 に連載中の紀行エッセイ 『牧水が愛した群馬の地酒と温泉』 の取材です。
ところが今回、取材に応じてくれたのは、主人の岡田さんではありませんでした。
話には聞いていましたが、岡田さん夫妻は体調を崩されて、現在は自宅療養中です。
現在、代わりに宿を開けているのは、お嫁さんでした。
「義父からお話は聞いています。お世話になります。どうぞ、こちらへ」
と案内され、玄関脇から通じる蔵の中へ。
昔ながらの急な階段を上れば、そこは、大正ロマンの世界。
あたかも牧水が、そこ居るような文学的な空気が漂っています。
座敷の中央に木製の大きな机があります。
初めての晩、ここで岡田さんと差しつ差されつ、酒を酌み交わしたのです。
岡田さん、女将さん、早く良くなって、また宿を続けてくださいね。
その日を、お待ちしております。
※現在、「ゆじゅく金田屋」 は素泊まりのみの予約となっています。
Posted by 小暮 淳 at 11:37│Comments(2)
│温泉地・旅館
この記事へのコメント
そうなんです、今は若女将がどうにか頑張っておられます。
友人が手伝いをしているので先日挨拶がてら行ってきたばかりです。
湯宿温泉のポータルサイトも登場し、これからが非常に楽しみです。
ご主人も早く良くなりますよう…
友人が手伝いをしているので先日挨拶がてら行ってきたばかりです。
湯宿温泉のポータルサイトも登場し、これからが非常に楽しみです。
ご主人も早く良くなりますよう…
Posted by こいk at 2024年08月29日 20:09
こいkさんへ
若女将、頑張っていましたよ。
僕にとっては、思い出深い宿です。
(『群馬の小さな温泉』 表紙の宿です)
若女将、頑張っていましたよ。
僕にとっては、思い出深い宿です。
(『群馬の小さな温泉』 表紙の宿です)
Posted by 小暮 淳 at 2024年08月29日 23:30