2024年08月28日
法師温泉 「長寿館」⑪
「お久しぶりです」
「お待ちしていました」
2人は、思わず旅館の前で、握手をしてしまいました。
法師温泉(みなかみ町) 「長寿館」。
昨日、訪ねると、なんと!玄関前で、6代目主人の岡村興太郎さんが出迎えてくれました。
現在は7代目を長男の健さんが継いでいるので、現在は会長職です。
「びっくりしました。まさか会長がいるとは!」
そう言うと、
「だって小暮さんが見えると聞いたものですから」
と、満面の笑みで、手を差し出したのです。
もう、それだけで僕は、「今日の取材は成功だ!」 と確信しました。
岡村さんとの付き合いはは、かれこれ20年近くになります。
新聞や雑誌、著書の取材に訪れるたび、囲炉裏を囲んで茶を飲み、部屋では日本酒を酌み交わしました。
※ (拙著 『みなかみ18湯 【下】』 P83に、2人が酒を酌み交わす写真が掲載されています)
岡村さんは、群馬県温泉協会長という立場からも、僕の取材活動を長年、応援してくださっています。
著書の出版記念パーティーには、毎回出席いただき、祝辞を述べていただいています。
だから僕にとって岡村さんは、温泉の師であり、酒の師なのであります。
僕には、忘れられない岡村さんの言葉があります。
それは、初めて取材に訪れた日のこと。
湯を守る “湯守(ゆもり)” としての心得を訊ねたときでした。
こんなことをおっしゃいました。
「温泉とは、雨や雪が融けて地中にしみ込み、何十年もかけて鉱物を溶かしながら、ふたたび地上へ湧き出したものです。でも地上へ出てからの命は、非常に短い。空気に触れた途端に酸化し、劣化が始まってしまう。湯守の仕事は時間との闘いです。いかに鮮度の良い湯を提供するかなんです」
そして、こんなことも言いました。
「湯守は、温泉の湧き出し口 (泉源) だけを守って入ればいいのではない。もっとも大切なのは、温泉の源となる雨や雪が降る場所、つまり宿のまわりの環境を守ることなんです」
周辺の山にトンネルなどの土木工事をされれば、湯脈が分断される恐れがあります。
またスキー場やゴルフ場ができれば、森林が伐採され、山は保水力を失い、温泉の湧出量が減少するかもしれません。
ただただ、岡村さんの話に感動しました。
そして、その心得が、僕の原動力となり、たくさんの本を書かせてくれました。
と言っても、実は今回は、温泉の取材ではありません。
歌人・若山牧水の足跡を追って、牧水が泊まった部屋と、呑んだであろう酒の話を聞くために訪ねました。
岡村さんは、大の酒好きであります。
もちろん僕も、のん兵衛であります。
だもの、大酒呑みの牧水については語り合えば、話が尽きることはありません。
泊まった部屋は、18番の間。
過去に僕も 何度も泊まったことのある部屋です。
はたして、ここで牧水が呑んだ酒とは?
その銘柄が判明しました。
それは……
9月20日発行のフリーペーパー 「ちいきしんぶん」 にて発表します。
もちろん取材後に、“奇跡の湯” と呼ばれる足元湧出泉の湯を、たっぷりと堪能しました。
Posted by 小暮 淳 at 11:43│Comments(0)
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