2013年09月14日
半出来温泉 「登喜和荘」③
ライターにとって、やりがいとは?
どんな仕事でも同じだと思いますが、お客様に商品を喜んでいただいた時だと思います。
僕にとって 「仕事」 とは、温泉地を取材して文章を書くこと。
「商品」 とは、その文章が載った記事や著書です。
そして、「お客様」 は、読者ということになります。
[本、持っています」
「記事、いつも読んでます」
そんな言葉が嬉しくて、ヤクザな商売だとは思いつつも、何十年とライター業を続けています。
でも、ライターとしての喜びは、それだではありません。
僕にとって読者がお客様ならば、取材元の温泉旅館は、企業でいえば取引先であります。
まずは取引先に喜んでいただかねば、いい記事も書けませんし、読者も読んでくれません。
だから僕には、読者も大切ですが、温泉旅館のご主人や女将さんに喜んでもらうことも、ライターとしての “やりがい” なんです。
1年ぶりに、群馬県嬬恋村の半出来温泉に行って来ました。
宿に入るなり、フロントのカウンターに積まれたチラシのような紙の束に目が留まりました。
手に取ってみると、それは、1年前に僕が朝日新聞に書いた半出来温泉の記事でした。
このシリーズは 『おやじの湯』 というタイトルで、旅館の主人を裸にして、一緒に温泉に入り、湯の中で談義をするというもの。
当時、その斬新な企画が話題となりました。
で、記事の真ん中にはドーンと大きく、2代目主人の深井克輝さんと僕の入浴写真が掲載されています。
うれしいですね。
こうやって記事をコピーまでして、入浴客や宿泊客に配っているなんて。
ライター冥利に尽きるというものです。
「主人のことを、面白く書いていただいてありがとうございました。本人も、とっても喜んでいますよ」
と、出迎えてくれたのは、2代目女将のさかいさん。
「温泉以外、なんにもない宿ですけど、一晩、ゆっくりしていってくださいね」
と、2階の客室に案内してくれました。
部屋の窓からは、庭一面に咲いた色とりどりのコスモスを見渡すことができます。
春夏秋冬、いつ訊ねても、花が絶えることのない宿です。
すべて、花好きの女将さんの手入れによるものです。
源泉の温度は、42.5度。
熱からず、ぬるからず、ちょうど良い湯加減です。
名物の混浴露天風呂からは、吾妻川に架かる吊り橋が見えます。
初めて訪ねた日、ゆら~り、ゆら~りと揺れる吊り橋が、とても怖かったことが思い出されます。
対岸には、JR吾妻線の袋倉駅があります。
時おり、コトンコトン、コトンコトンと、電車の通り過ぎる音が聞こえてきます。
鳴き出した虫の声も、肌を通り過ぎて行く風も、すっかり秋の気配です。
湯上がりは、女将さんが畑で育てた野菜の煮物や天ぷらを肴に、またご主人と温泉談義をしてきました。
“いい湯、いい宿、いい人”
三拍子そろってこそ、いい仕事ができるというものです。
ご主人、女将さん、取材協力ありがとうございました。
Posted by 小暮 淳 at 18:27│Comments(0)
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