2013年10月31日
丸沼温泉 「環湖荘」②
<昂奮の後のわびしい心になりながら沼のへりに沿うた小径の落葉を踏んで歩き出すと、ほどなくその沼の源ともいうべき、清らかな水がかなりの瀬をなして流れ落ちている処に出た。そして三十、四十間その瀬について行くとまた一つの沼を見た。大尻沼より大きい、丸沼であった。>(『みなかみ紀行』より)
大正11年10月、歌人の若山牧水は丸沼湖畔に投宿して、翌日、金精峠を越えて日光に向かっています。
著書の 『みなかみ紀行』 に記されている、群馬県内最後の宿泊地です。
でも、丸沼に 「環湖荘」 の前身である 「丸沼温泉ホテル」 ができたのは、昭和8年のこと。
ですから、牧水が泊まったのは、旅館ではありません。
湖畔に建つ、養殖の管理小屋でした。
こんな一文があります。
<C-家がこの丸沼に紅鱒の養殖を始めると農商務省の水産局からC-家に頼んで其処に一人の技師を派遣し、その養殖状態を視る事になって、もう何年かたっている。老人はその技師であったのだ。>
この老人が管理小屋の番人であり、C-家というのが丸沼の持ち主。
現、「環湖荘」 のオーナーであります。
丸沼は、日光国立公園の中にありますから、現在でも丸沼には 「環湖荘」以外の人工物は、一切ありません。
まさに、群馬を代表する秘湯の宿といえます。
で、雪深い地にある 「環湖荘」 は、来月から冬期休業に入ってしまいます。
ならば、その前に、ぜひ、泊めていただこうということになり、行ってきました。
目的は?
はい、牧水も食したであろう、魚料理であります。
以前、僕が講師を務める野外温泉講座で訪ねたときも、受講生のみなさんからヤマメの塩焼きに絶賛をいただきました。
とにかく、魚料理が美味しい宿です。
と、いうことで、温泉の取材と撮影は、サクサクっと済ませて食堂へ。
まずは、地酒のコップ酒をキュー、キューっと、ふた口。
そして、ニジマスの天ぷらに、パラリと塩をひとつまみ。
もー、たまりません!
サクサクの衣に、ふっくらした白身が、口の中で絶妙な食感に変わります。
こんなフワフワしたニジマスなんて、初めて食べました。
ほどよくして、焼きたてのヤマメが・・・
「よっ、待ってました!真打登場!」
と、期待が膨らみます。
その昔、最初に泊まった晩に、このヤマメの塩焼きに、胃袋をワシづかみにされてしまったのです。
そして、今回も、その味は裏切りませんでした。
肉厚で、しっかりと身がしまっています。
ふくよかなボディは、「山女」 と書くくらいですから、実に女性的で色っぽいですね。
箸で、チョンチョンと突きながら飲む酒は、極上であります。
もう、進む進む!
しっかり、地酒のお替りをしてしまいました。
丸沼は紅葉も終わり、早くも冬支度の真っ最中。
11月中旬から4月下旬までは、クローズとなります。
Posted by 小暮 淳 at 19:10│Comments(2)
│温泉地・旅館
この記事へのコメント
こんばんは。
わたしがこちらに宿泊したのが、下界が猛暑で辟易しているときでした。
湖を渡る風は、透き通るようにすがすがしく、天然クーラーそのもの。
同じ群馬でも前橋あたりとはぜんぜん気温が違いました。
宿の目の前の湖はところどころ湧き水がわいています。
野反湖と同じように、別世界に踏み込んでしまったかのようなゆったりとした時の流れと神秘な空間が展開します。
俗世、煩悩を忘れ去ることができた、忘れられない宿のひとつです。
わたしがこちらに宿泊したのが、下界が猛暑で辟易しているときでした。
湖を渡る風は、透き通るようにすがすがしく、天然クーラーそのもの。
同じ群馬でも前橋あたりとはぜんぜん気温が違いました。
宿の目の前の湖はところどころ湧き水がわいています。
野反湖と同じように、別世界に踏み込んでしまったかのようなゆったりとした時の流れと神秘な空間が展開します。
俗世、煩悩を忘れ去ることができた、忘れられない宿のひとつです。
Posted by G@さいたま at 2013年10月31日 22:29
G@さいたまさんへ
標高1,430メートル、原生林に囲まれた丸沼は幻想的で、まさに “神秘の湖” ですね。
また、ここに湧く源泉も、丸沼の湖水のように透明感があり、真水と見まがうほどに美しい。
流れ込んだ温泉の塩分を目当てに、ときどき野鹿が水を飲みにやって来るらしいですよ。残念ながら僕は、まだ一度も出会っていませんが・・・。
今日あたりは、もう雪が舞っているかもしれませんね。
標高1,430メートル、原生林に囲まれた丸沼は幻想的で、まさに “神秘の湖” ですね。
また、ここに湧く源泉も、丸沼の湖水のように透明感があり、真水と見まがうほどに美しい。
流れ込んだ温泉の塩分を目当てに、ときどき野鹿が水を飲みにやって来るらしいですよ。残念ながら僕は、まだ一度も出会っていませんが・・・。
今日あたりは、もう雪が舞っているかもしれませんね。
Posted by 小暮 at 2013年11月01日 14:44