2014年09月15日
生きてりゃいいさ②
「医者によれば、あと5年は生きるそうですよ」
Kさんは、実家の近くに暮らすご老人です。
大正13年生まれの満90歳。
僕のオヤジと同い年です。
ただね、歳は同じでも、見た目も中身もだいぶ差があります。
だってKさんたら、
「6月に免許の更新に行ってきましたよ」
ですって!
まだ車の運転をしているんです。
(うちのオヤジは80歳で、免許を取り上げました)
そんなKさんが一昨日、オヤジを迎えに来ました。
町内の公民館で開かれる 「敬老祝賀会」 に出席するためです。
「ほら、じいさん、Kさんが迎えにきたよ」
と言えば、
「Kさんって誰だい?」
なーんて、本人を前に失礼なボケをかまします。
「一緒に行こうってさ。迎えに来てくれたんだよ」
「どこへ?」
「公民館だよ」
「なんでさ?」
「だから、何度も言ってるだろ! 敬老会だよ」
Kさんは、そんな親子の会話を聞いて、ただニコニコと微笑んでいました。
数時間後、僕は公民館にオヤジたちを迎えに行きました。
シッカリとした足取りで、Kさんが折り詰めを手に出てきます。
「こうやって出られるのも、今年が最後かもしれませんよ」
「そんなことはないでしょ。Kさんは元気だもの」
「90歳以上は、私と小暮さんだけでした。だんだん出られなくなるんでよ」
とKさんと玄関で話し込んでいて、オヤジの存在を忘れていました。
「えーと、オヤジは…」
いました、いました!
会場の真ん中に突っ立って、オロオロしています。
「わかんないよ~、わかんないよ~」 を連発しています。
公民館からの帰り道。
Kさんがポケットからタバコを取り出して、おいしそうに吸い出しました。
僕がビックリした顔をすると、
「私は、これが楽しみでね」
「若い頃から吸っているんですか?」
「兵隊に行ったときからだから、もう70年以上吸っていますよ」
これまた驚いていると、
「医者にね、タバコは止めたほうがいいですか?って訊いたんですよ」
「そしたら?」
「いえ、あなたはガンにならない体質ですから、お吸いなさいだって」
そう言って笑いながら、おいしそうに煙を吐き出すのでした。
あんまり元気なKさんを見ていると、なんだかオヤジが不憫に思えてなりません。
とっくの昔に、車の運転も止めて、タバコも止めて、これといった趣味も楽しみもなく生きています。
たった1つの楽しみだった散歩も、迷子になってからは禁止されてしまいました。
「私は散歩が好きでね。毎日、2キロ先の喫茶店まで行って、コーヒーを飲んで帰って来るんですよ」
オヤジが聞いたら、うらやましがる話ですが、幸か不幸か耳が遠いので聞こえていませんでした。
老人には、個体差があるのですね。
息子から見ても、Kさんは確かに、うらやましい老人です。
介護の必要がありませんもの。
でも、じいさん!
じいさんは、じいさんのままでいいよ。
散歩なら、オレが一緒に行ってやるからさ。
生きてりゃいいさ。
Posted by 小暮 淳 at 20:33│Comments(0)
│つれづれ