2014年10月02日
夢を配る男
先日の朝のこと。
僕はJR前橋駅前で、バスを待っていました。
改札口から吐き出されるサラリーマンや学生の群れ。
その人波の中で、通り過ぎる学生に声をかけながら、何やら紙切れを手渡している中年男性の姿がありました。
あれ?見たことあるような……
と思いながら眺めていると、その男性も僕の視線に気づき、手を止めてこちらを見ています。
「あっ!」
と当時に叫んで、2人は互いに手を上げて、近寄りました。
その男性は、I さんでした。
I さんは、その昔、僕が勤めをしていた時の同僚です。
しかも、同じ歳。
しかも・・・
I さんが、僕の勤める群馬県内の会社にやって来たのは、もう25年も前のことです。
それ以前は、東京でミュージシャンをしていました。
それもロックファンならば、誰もが知っている有名なバンドのメンバーでした。
解散後は、他のアーティストのバックバンドでギターを弾いていましたが、30歳を機に音楽の道をあきらめて、結婚と同時に群馬へやって来たのでした。
そんな僕との共通点もあり、彼とはすぐに仲良くなり、一緒に仕事をするだけではなく、プライベートでも酒を飲んでいました。
でも僕は数年後に退社して、フリーのライターになってしまいました。
彼は、その後、10年以上、その会社にいたと思います。
そして僕らは連絡を取ることもなく、疎遠になっていました。
数年前、思わぬ場所で、僕と I さんは再会しました。
楽器店です。
「えっ、なんで、ここにいるの!?」
僕がビックリしたのは、彼が、その楽器店の店員だったからです。
「俺さ、あの会社、辞めちゃった。やっぱさ、音楽に囲まれて暮らしていたいのよ」
そう言った彼の目は、キラキラと輝いて見えました。
「バンド、やってる?」
と彼。
「やってるよ。そっちは?」
「ああ、やってる。オヤジバンド!」
そう言って、互いに笑い合ったのでした。
「こんなところで、何してんのよ?」
「チラシ配り」
「それは、見れば分かるさ。なに、高校生に楽器を売りつけようってかい?」
「うん…、でも、なかなか受け取ってくれないんだよね」
「小暮さんこそ、どこへ行くの?」
「温泉講座の日なんだ。これからバスで長野まで」
「いいなぁ~、夢がかなってるじゃん!」
「夢? かなっているもんか。I さんこそ、好きな音楽に囲まれて暮らしているじゃん」
すると、少し間を置いて、彼が言いました。
「俺さ、ギターを売ろうと思うんだ」
「売るって、全部かい?」
確か彼は、ギターを10本以上持っています。
「2本だけ残してね。あと全部」
「どうしてさ?」
「なんだかさ、見ているのつらくなっちゃってね」
「じゃあ、また」
そう言って、僕らは人波の中で分かれました。
I さんは、チラシを配りに。
僕は、受講生の待つバスへ。
Posted by 小暮 淳 at 21:38│Comments(3)
│つれづれ
この記事へのコメント
お久しぶりです。我が家も介護生活になり、なかなか出歩くことができなくなりました。ところで、そのご友人のチラシの中身が気になります。
Posted by 草津っ娘? at 2014年10月03日 00:02
題名は忘れましたが中村雅俊の歌を思いだしました。
この街で君と出会い、
この街で君と過す、
そしたらいつかどこかの街で~~
昭和の男くさい良い話ですね。
この街で君と出会い、
この街で君と過す、
そしたらいつかどこかの街で~~
昭和の男くさい良い話ですね。
Posted by 桜井 at 2014年10月03日 09:35
草津っ娘?さんへ
お久しぶりです。
介護って、愛情がないと続かない、とっても厄介なものです。
怒ったり、泣いたり、笑ったり……、でも時々、ホッとしたくもなります。
お互い、手を抜きながら、ボチボチやりましょうね。
楽器店のチラシですから、当然、楽器のセールであります。
桜井さんへ
夢を見るバカ、追いかけるバカ。
どうして男って、あきらめられないんでょうね?
そんな自分が悔しくて、悔しくて・・・
でも、語れる友がいるだけで、いいんです。
(負け惜しみかもしれないけれど)
お久しぶりです。
介護って、愛情がないと続かない、とっても厄介なものです。
怒ったり、泣いたり、笑ったり……、でも時々、ホッとしたくもなります。
お互い、手を抜きながら、ボチボチやりましょうね。
楽器店のチラシですから、当然、楽器のセールであります。
桜井さんへ
夢を見るバカ、追いかけるバカ。
どうして男って、あきらめられないんでょうね?
そんな自分が悔しくて、悔しくて・・・
でも、語れる友がいるだけで、いいんです。
(負け惜しみかもしれないけれど)
Posted by 小暮 淳
at 2014年10月04日 13:43
