2015年06月28日
ロング・グッドバイ
オヤジの認知症が、加速を増して進んでいます。
以前は5分もった記憶も、3分となり、今では1分ともちません。
「なんだっけ、もう1回言っておくれ」
そのつど、耳の遠いオヤジに向かって、大声を張り上げなくてはなりません。
1回や2回ならば、我慢ができます。
でも、それがエンドレスに続くのです。
こちらのほうが、ノイローゼになりそうです。
だから最近は、「なんでもありません。もういいから部屋に行ってください!」 と、かなり冷たくあしらってしまうこともたびたび。
しょんぼりしながら部屋に向かうオヤジの後姿を見るたびに、「申し訳ない。言い過ぎた。次からは、もっとやさしく接してやろう」と、その時だけは思うのですが・・・
でも、こちらも生身の人間です。
神様や仏様にはなれません。
ついつい、突っぱねてしまいます。
以前、オヤジがアニキのことは分かっても、僕の存在を忘れてしまったことを書いたことがありましたが、今日は2人とも分からなくなってしまいました。
実家の前の道路には、フタをされた側溝がありますが、僕が子どもの頃はドブ川でした。
オヤジは、散歩に出かけるたびに、昔を思い出して必ず同じことを訊いてきます。
「ここに川があったよな。よく落っこちたのは誰だっけ?」
そのつど、「オレだよ」 と答えています。
するとオヤジも、「そーだよな。ジュンだよな」 と納得します。
ところが今日は、質問のしかたが異なりました。
「落っこちたのは、お前だっけ? ジュンだっけ?」
うん? これは完全に僕とアニキを間違えているようです。
ちょっと、意地悪を言ってみることにしました。
「お前って、誰よ?」
「・・・」
「この人(僕は自分を指さして)は、誰ですか?」
「わかんない」
「わかんないって? W(兄の名前) だと思っているでしょ?」
すると、
「Wって、誰だ?」
ついに、アニキのことも忘れちまったようです。
「ジュンの兄だよ」 と言えば、
「そうか、ジュンには兄弟がいるのか…」
いったい、誰と散歩をしていると思っているのでしょうか?
オヤジの頭の中は、どうなっているのだか! 謎だらけであります。
ところで、認知症のことをアメリカでは、「ロング・グッドバイ」 って言うんですってね。
“長い別れ” です。
意味を調べたら、「少しずつ記憶を失くして、ゆっくりと遠ざかって行くから」 だそうです。
もしかしたらオヤジは、僕ら兄弟に、少しずつサヨナラを言っているのかもしれませんね。
急に旅立って、悲しませないように・・・
Posted by 小暮 淳 at 20:52│Comments(0)
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