2016年10月16日
ウンチが出ちゃう!
「じいさん、散歩行くかい?」
「……えっ?」
「散歩だよ、さ・ん・ぽ!」
「連れてってくれるのかい?」
「ああ」
「行くよ、連れてっておくれよ」
「だったら準備して。ほら、帽子とステッキ」
「あ、その前に、トイレに行かなくちゃ」
オヤジは大正13年(1924) 生まれの92歳です。
目も耳も不自由で、認知症が進んでいます。
でも、散歩が大好きなんです(マロと同じ)。
だいぶ足腰が弱ってきているんですけどね。
それでも、雨さえ降っていなければ、毎日何回でも外へ出かけたがります。
昨日は、今年最高の “晴天” に恵まれました。
僕は伊香保温泉の帰り道、実家に寄ってオヤジを誘い出すことにしました。
庭先で待っていると、しばらくして帽子をかぶって、ステッキを突いたオヤジがやって来ました。
「さて、今日はどっちへ行こうか? お寺かな、神社かな?」
オヤジの手を引いて歩き出した途端、
「トイレ、行ってくる」
「えっ、今行って来たんじゃないの?」
「今度は、ウンチ」
そう言って家の中へ、もどってしまいました。
子どもかよ! 1回で済ませて来いよ! ったく!!
「ウンチ、出たかい?」
「うん、出た」
「じゃ、行こう」
とオヤジの手を引っ張りますが、動こうとしません。
それどころか、見る見るうちに顔がコマッタちゃんになっていきます。
「どうした? 具合が悪いのか?」
「……」
「どうしたんだよ?」
「……、ウンチが出る」
「まだ出るの? 早く行って来なよ」
と、また家の中へもどりました。
待つこと約10分。
帽子をかぶって、ステッキを突きながらオヤジが、ヨタヨタと歩いてきます。
「またウンチ、出たの?」
「出た」
「お腹、痛いの?」
「平気」
「散歩、どうする? 行く?」
「うん、行くよ」
僕らは、町内の寺院を目指して歩き出しました。
歩き出して、ものの2~3分です。
またしてもオヤジが立ち止まってしまいました。
ま、さ、か……
「どうした、じいさん?」
「ウ、ウ、ウンチが出ちゃうーーーーーっっっ!!!!!!」
「大丈夫か? 間に合うか? 尻の穴、キューっと締めて! もうすぐ、がんばれ、ほれ、着いたよ」
なんとか漏らす前に、オヤジをトイレに押し込むことができました。
トイレから出てきたオヤジは、グッタリとしてベッドに横になってしまいました。
「今日は、もう散歩へ行かないよ」
「……」
「いいね!?」
「う、……うん」
顔を覗き込むと、うっすらと涙を浮かべて、情けない顔をして僕を見上げていました。
子どもかよ!
また連れってやるから、体調整えておけよ!
明日からも、しばらく天気はいいらしいよ。
Posted by 小暮 淳 at 12:40│Comments(0)
│つれづれ