2017年03月08日
黄泉の国から
なんとも寝覚めの悪い夢を見ました。
9年前に亡くなった友人の夢です。
いえ、友人というよりも、彼は仕事の相棒でした。
一緒に離島を取材しながら旅をしたカメラマンです。
あの頃のように、僕は彼と夜の街で待ち合わせをしています。
決まって取材へ出かける前は、打ち合わせと称して酒を酌み交わしていました。
ところが昨晩の彼は、いつもと様子が違いました。
待ち合わせの時間には遅れることなく来たのですが、顔面蒼白です。
「小暮さん、ごめん。今日は無理みたい。体調が良くありません」
そう言って彼は、胸のあたりに手を当てて、路傍にうずくまりました。
彼の死因は、肺ガンでした。
でも夢の中の僕は、まったくその事実を知りません。
もちろん、彼がすでに亡くなっていることにも気づいていません。
それよりも僕は、つじつまの合わないおかしなことを考えていました。
今年の正月、突然、彼の奥さんから電話がありました。
「息子たちも小暮さんに会いたがっているので、遊びに来られませんか?」
僕は、この電話にハッとしました。
思えば彼が黄泉の国へ旅立って以来、一度も彼の家に行ってなかったことに気づいたのです。
その数日後、僕は彼の家を訪ね、自分の著書を仏壇に供え、9年ぶりに線香を上げました。
仏壇の中で、微笑む遺影。
南の島で釣りをしている彼を写したものです。
シャッターを押したのは僕。
「この頃の主人が、一番生き生きとしていました」
と奥さん。
カメラマンだった彼自身を撮った写真は、ほとんどないと言います。
僕は夢の中で、この日のことを考えていました。
<なんで彼は、正月に遊びに行った時に、いなかったのだろう? たまたま仕事で不在だったのだろうか?>
そんな疑問が渦巻く中、僕は彼を介抱しています。
「救急車を呼ぼうか?」
「いや、いいです。今日は、これで帰って寝ます」
「本当に大丈夫かい?」
「はい、ご心配かけました。では、また連絡します」
そう言って彼は、夜の街へ消えてしまいました。
なんで、あんな夢を見たのだろう……。
今日は朝から悶々としていました。
もしかしたら今になって、正月のお礼を言いに来たのかしらん。
それとも・・・
あの日、僕は彼の息子と酒を飲みながら、こんな話をしました。
「来年はお父さんの十回忌だね。没後10年の節目に、彼の写真集を作ろうか?」
すると製作会社に勤める息子が、
「はい、ぜひ、お願いします。ね、母さん! 絶対にお父さん、喜ぶよね」
せっかちな彼のことです。
昨晩の打ち合わせは、取材ではなく、写真集の件だったのかもしれませんね。
Posted by 小暮 淳 at 15:22│Comments(0)
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