2018年07月12日
もっと恍惚の人
「確か、昔、読んだよな。たぶん、あったような気がしたけど……」
オヤジの介護をしていて、突然、僕は、ある本が読みたくなって、書庫へ駆け込みました。
書庫といっても、たたみ2畳ほどの小さな納戸です。
天井までの書棚が2つあるだけです。
その棚の奥の奥に、セピア色した文庫本を見つけました。
有吉佐和子・著 『恍惚(こうこつ) の人』(新潮文庫)
読んだ記憶はありますが、内容は、まったく覚えていません。
ただ、老人介護の話だったという以外は……
「昔は、どうだったんだろうか? 今とは勝手が違ったのだろうか?」
急に、自分が抱えている介護との比較がしたくて、読み始めました。
小説が出版されたのは、昭和47年(1972)。
当時、ベストセラーとなり社会に大きな影響を与えました。
物語は、ショッキングなシーンから始まります。
主人公の嫁・昭子は、仕事帰りに、町を徘徊する舅(しゅうと) の茂造と出くわします。
「腹が減った。何か食べさせてくれ」
「おかあさんは、どうしたんですか?」
「婆さんは、いくら言っても起きてくれない」
あわてて家に帰り、離れをのぞくと、姑(しゅうとめ) が亡くなっています。
舅、84歳。姑、75歳。
このとき初めて、息子夫婦は、茂造が認知症であることに気づきます。
そして、経験したことのない介護生活が始まります。
でも、これは半世紀近く前に書かれた小説です。
当時はまだ “認知症” という言葉はなく、「ボケ」 「痴呆(ちほう)」 「耄碌(もうろく)」 という言葉が使われています。
そして驚いたのは、当時の平均寿命です。
男性は69歳、女性は74歳なんですね。
今より10歳も若かったことになります。
「うんうん、分かる、分かる。そうそう、そうなんだよな」
と、時代は変われど、介護の実状は変わりません。
でも時には、
「甘い、甘い。うちのジイサンは、そんなもんじゃねーぞ!」
なんて、ツッコミを入れたりしながら読んでます。
ふと、本から目を離すと、寝息を立てているオヤジがいます。
息子の信利が妻に言った言葉が、めぐります。
「俺もうっかり長生きすると、こういうことになってしまうのかねえ」
Posted by 小暮 淳 at 11:01│Comments(0)
│つれづれ