2020年08月04日
笹を刈る
昭和15 (1940) 年4月、作家の井伏鱒二は、太宰治ら数名と四万温泉 (中之条町) に来遊しています。
この時のエピソードが、僕は大好きです。
<太宰君は人に恥をかかせないように気をくばる人であった。いつか伊馬君の案内で太宰君と一緒に四万温泉に行き、宿の裏で私は熊笹の竹の子がたくさん生えているのをみて、それを採り集めた。そのころ私は根曲竹と熊笹の竹の子の区別を知らなかったので、太宰君に 「この竹の子は、津軽で食べている竹の子だね」 と云って採集を手伝ってもらった。太宰君は大儀そうに手伝ったくれた。>
(井伏鱒二 『太宰治のこと』 より)
この時、泊まった宿は 「四萬舘」 で、僕もたびたび取材等でお世話になっているが、確かに宿の周辺には、今も熊笹の群生が見られます。
太宰は熊笹を見て、すぐに食用ではないと気づいたはずです。
それでも師匠に逆らわず、嫌な顔をせずに手伝ったのですね。
そして、このエピソードには、後日談がありました。
結局、井伏鱒二は、この竹の子を家まで持ち帰り、料理して食べてしまったといいます。
師弟関係にある2人ならではの互いを気遣う、なんとも、ほほえましいエピソードであります。
唐突に、なんで、こんな話をしたかというと、昨日、笹を刈ったのであります。
我が家には、猫の額ほどの庭があります。
いえいえ、庭など呼べる代物ではなく、玄関前の駐車場です。
ですから、ほとんどはコンクリート舗装されているのですが、小さな花壇が2つあります。
その花壇が、チューリップが枯れた以降、ほったらかしになっていて、梅雨の長雨にさらされて、草ぼうぼうの状態でした。
梅雨が明けたこともあり、一念発起し、草むしりを実行しました。
小さな小さな花壇ですから、ものの1時間で終わりました。
それでも、汗びっしょり!
熱中症にならぬよう、水分補給の休憩をしているときです。
前々から気になっていたことに、改めて気づいてしまいました。
「あの笹、どうにかならないの?」
再三、家人に言われていた言葉が、よみがえります。
駐車場と道路のわずかな間、コンクリートから土が露出している部分に、いつの間にか笹が生え出し、あれよあれよのうちに小さな竹林のように群生してしまったのです。
「いつか、そのうち」 「いつか、そのうち」
と言いながら、気が付いたら笹は、身の丈を越えていました。
「よし!」
思い立ったら吉日とばかりに、鎌を持ち出して、悪戦苦闘をすること2時間!
軽いめまいを感じながらも、休憩と水分補給を繰り返し、ついに根絶しました。
で、その笹刈り作業中、ずーーーっと考えていたのが、井伏鱒二と太宰治のエピソードでした。
さらに文学ファンには、つとに有名な話があります。
滞在中に撮られた一枚の写真です。
その写真には、井伏鱒二と太宰治の入浴シーンが写されています。
井伏は肩まで湯舟に沈んでいますが、太宰は立ち上がり、左手で股間を手ぬぐいで隠しながら、右手で頭をかいています。
この写真が公開されると、太宰の逆鱗に触れました。
太宰の下腹部に盲腸の傷痕が写っていたからです (陰毛も少し写っています)。
太宰は、この傷痕をとても気にしていたため、写真を撮った伊馬春部にフィルムの処分を求めたといいます。
ちなみに太宰は、この滞在の後、四万温泉を舞台にした 『風の便り』 という小説を執筆しています。
Posted by 小暮 淳 at 11:15│Comments(0)
│温泉雑話