2021年03月19日
あっ、ロボットだ!
泉昌之の漫画に、『ロボット』 という短編があります。
仕事帰り、深夜の駅に降り立った主人公の男性。
北風が吹く駅前で、温まって行こうとニンニクラーメンを食べます。
すると、グ、グ、グ、グーーーーーと腹が鳴り出し、便意が襲いかかります。
しかし、しばらくすると治まり、また、しばらくすると始まります。
<便意には 「周期」 がある。彼は今、その波の 「谷」 といわれる地点にいる。そして、ヤマは巡ってくる度に、その波の周期はせばまり、振幅は大きくなる。>
探すも、家路までの間に公衆トイレはありません。
やがて限界を感じた主人公は、ガード下の駐車場に駆け込み、ベルトをはずし、ズボンを下し……
ワンワンワンワンワン!
その瞬間、野良犬に吠えられてしまいます。
ズーッコッ、ズーッコッ、ズーッコッ……
深夜の住宅街に、足を引きずる音が響きます。
「ママ―、どーろにロボットが歩いてるよ」
明かりの点いた家の中から、子どもの声が聞こえるシーンで終わります。
僕も先日の夜、ロボットを見ました。
場所は、我らのたまり場、酒処 「H」。
開店早々に行ったのに、すでにカウンターで常連のAちゃんが一人で呑んでいました。
「あれ、早いね。今日、ゴルフは? 行かなかったの?」
Aちゃんは大のゴルフ好きです。
休みの日は、たいがいゴルフをしています。
「行かなかったのじゃなくて、行けなかったの」
なんでも、突然、ギックリ腰になってしまったのだといいます。
ギックリ腰の正式名は、急性腰痛症。
年齢に関係なく、前触れもなく襲ってきますから、他人ごとではありません。
しかも、必ずしも重いものを持った時に発生するとも限りません。
前かがみになって物を取ろうとした瞬間や、人に呼ばれて後ろを振り向いた瞬間にも、突如、襲ってきます。
それゆえ、欧米では 「魔女の一撃」 と呼ばれているそうです。
案の定、Aちゃんも空の段ボール箱を移動しようとした瞬間に激痛が走り、そのまま動けなくなってしまったといいます。
僕より若いだけに、気の毒と思いながらも笑ってしまいました。
でも、本当に声を出して笑ってしまったのは、その後のことです。
「いたた、いたた」
と言いながらも、カウンター席から下りて、トイレへ向かうAちゃんの姿です。
ズーッコッ、ズーッコッ、ズーッコッ……
もう、笑いが止まりません!
不謹慎ながら僕の頭の中では、泉昌之の漫画のラストシーンがよみがえり、Aちゃんの姿が、その実写版となって重なり合っていました。
Aちゃんには、もちろん、ママや他の客にも聞こえないように、僕は小さな声で、つぶやきました。
「あっ、ロボットだ!」
Aちゃん、早く良くなってくださいね。
Posted by 小暮 淳 at 15:28│Comments(0)
│つれづれ