2021年05月09日
トラウマの風景
「あの時と同じだ!」
思わず全身に力が入り、新聞を持つ手が震えました。
一瞬にして、あの日がよみがえり、苦しんだ日々がフラッシュバックされました。
PTSD (心的外傷後ストレス障害) です。
新聞の片隅に小さく載っていた記事。
<自転車の高2男子 軽にはねられ重傷 前橋>
記事によれば、6日午前8時10分頃、前橋市内の市道十字路で、自転車に乗っていた高校2年生 (16歳) の男子が、左から来た女子大学3年生 (20歳) の軽自動車にはねられ、高校生は首の骨を折るなどの重傷、大学生にケガはなかったといいます。
あの日と、まったく同じでした。
12年前のこと。
長男が登校のため自転車で家を出て、30分ほどした頃でした。
突然、僕のケータイが鳴りました。
着信名は、長男です。
なにか、忘れ物でもしたのだろうか?
と思いながら電話に出ると、聞こえて来たのは見知らぬ女性の声でした。
「高校生のお父様ですか?」
なんとも意味不明な電話です。
「私は、たまたま通りかかった者です。息子さんが事故に遭われ、いま救急車を呼びました。この電話は、このあと救急隊員に渡しますから指示にしたがってください」
と、なんとも冷静でテキパキと話す女性です。
これは後で分かったことですが、その女性は看護師さんで、息子が事故に遭ったときは医者と往診へ行く途中で、偶然、信号待ちをしていたのだといいます。
それから僕はどうやって、たどり着いたかのか覚えていませんが、気が付いたら救急病院の一室で、看護師らに囲まれていました。
「息子は、息子は、無事なんでしょうか!?」
大声を上げる僕に看護師は、
「お父さん、落ち着いてください。いま検査をしています」
としか言ってくれません。
なぜ、「大丈夫ですよ」 と言ってくれないのでしょうか?
その、ひと言が聞きたいだけなのに……
息子の意識は、3日後にもどりました。
それまでの人生で経験したこともない長い長い3日間でした。
いまだに長男は、事故当日と3日間の記憶はないといいます。
こっちは寿命が縮む思いで過ごした “魔の3日間” だというのに。
そして僕は、あの日以来、事故現場を通れなくなってしまいました。
新聞記事は、あの日と、まったく同じだったんです。
被害者の年齢も息子と同じ、はねた軽自動車を運転していた大学生の年齢も同じでした。
ならば、あの時と同じように、事故に遭った高校生も無事であってほしいと、ただただ願うばかりです。
親御さんの心中を察すれば、神にも仏にもすがる思いなのであります。
Posted by 小暮 淳 at 12:04│Comments(0)
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