2023年01月17日
青春の脱け殻
野暮用があり、実家に顔を出してきました。
すでに僕が子どもの頃に住んでいた家は無く、両親も他界し、兄夫婦が、建て替えた家に暮らしています。
現在、僕が暮らしているA町と実家のあるK町は同じ市内ですが、5キロほど離れています。
いつもは、なんらかの荷物が伴うため車で行き来をしていますが、天気も良いので日がな一日、のんびりと自転車に乗って行ってきました。
5キロの間には、僕が通っていた中学校があります。
当然、周辺は学区内ですから、よく遊びに行った同級生たちの家がありました。
「確か、ここにT君の家があったはずだけど……」
半世紀前の記憶をたどりながら、友だちの家を探すのは楽しいものです。
住宅街も路地裏も自転車ならば、スーイスイ!
でも、ほとんどの同級生の家が見つかりませんでした。
時代の変遷ともに区画整理が進み、新しい道路が通り、記憶の中の地図は、まったく使い物になりませんでした。
「そうだ、Aちゃんの家は、まだあるだろうか?」
と、元カノの顔が浮かびました。
初恋ではないけれど、とても仲良しで、中学~高校と付き合っていた女の子です。
デートをした帰り道、よく家の前まで送り届けた記憶があります。
その記憶をたどりながら、住宅街の中をウロウロ、ウロウロ……
「確か、大通りから一本南に入った道の……、そう、真ん中あたりの家だったよな……」
あった! ありました!
なんと、今でも門柱には、彼女の旧姓の表札が出ています。
でも……
家は完全なる廃墟でした。
伸び放題の庭草が枯れ果てて、ガラス窓越しに見える障子も破れ放題です。
確か、お兄さんがいたと思ったけど、実家は継がなかったようです。
両親も年齢を考えると、すでに他界していることでしょう。
風の便りで彼女自身は、はるか昔に嫁いで、他の土地で暮らしていることは知っていました。
しばし僕は、呆然と立ち尽くしながら、その廃墟を眺めていました。
「じゃあ、また明日!」
「おやすみなさい」
半世紀前に交わされた言葉たちが、よみがえります。
そして、その言葉たちは、次から次へと廃墟の中に吸い込まれて行きました。
まるで青春の脱け殻のように……
Posted by 小暮 淳 at 12:10│Comments(0)
│つれづれ