2023年05月02日
東京再会物語① インドに魅せられた男
一昨日昼、総武線の 「東中野」 駅に降り立ちました。
24年ぶりのことでした。
今から約30年前。
僕は仲間と、インドを旅したことがありました。
仲間の一人、T君は帰国するなり、会社に辞表を出してしまいました。
「俺、カレー屋になる」
突然の転職表明に、仲間の誰もが面食らったことを鮮明に覚えています。
インドの旅は、彼にとって人生を変えてしまうほどの衝撃だったのです。
その後、彼は国内で修業をし、さらにインドへと出かけて行きました。
そして帰国した平成8(1996)年、東京・東中野に南インドカレーの店をオープンさせました。
僕が最後に彼の店へ行ったのは、ベトナム旅行から帰国した、その足でした。
だから24年ぶりの再会になります。
もちろん、この日、僕が店へ行くことは、彼には告げてありません。
「いらっしゃいませ」
年配の女性は、たぶん彼の奥さんです。
店内は盛況で、ほぼ満席。
運よく空いていた、総武線を見下ろす窓際の席に通されました。
まずは、スリランカビールを注文して、喉を潤しました。
メニューに目を通していると、オープンキッチンの奥から視線を感じます。
T君です。
先ほどから彼は、チラチラと窓際に座った白髪の男性 (僕です) が気になっているようです。
僕は席から手を振りました。
<わかる?>
口パクとジェスチャーで告げると、彼は厨房の奥からカウンターまで、やって来ました。
「ジュンちゃん? あとで」
ランチタイムも終わりに近づいた頃、他の客がいなくなった時間を見計らって、彼は店内に出てきてくれました。
「久しぶり! 何年ぶりだろ?」
「ベトナム帰りに寄ったのが最後だから、24年ぶりだよ」
「温泉ライターで、頑張っているんだってね」
彼とは年賀状のやり取りだけですが、わずかな情報の交換はしていました。
「T君こそ、頑張っているじゃないか! この店、何年になる?」
「丸27年、今年28年目」
「よくやってるよ! コロナは大丈夫だったの?」
「テイクアウトでなんとか、しのいでた」
それから僕らは、懐かしい思い出話や近況について話しました。
店名は、南インドの味 『カレーリーフ』。
東中野駅西口から徒歩1分。
南インドカレーの店は、オープン当時は都内でも珍しく、あっという間に評判になりました。
味は一般に呼ばれているインドカレーに比べると、サラッとしていてスパイシー。
スープ状で、あっさりしています。
店名のカレーリーフも、南インドカレーには欠かせないスパイスの一種です。
「また来るよ! なんて言って約四半世紀ぶりだもんな。ごめん」
「ジュンちゃん、ありがとう! うれしかった」
階段を下りて店の外へ出ると、目の前をカレー色した電車が走り抜けて行きました。
Posted by 小暮 淳 at 09:53│Comments(0)
│つれづれ