2023年08月15日
逃亡者たち
「とりあえず逃げ切ったね」
S君が言いました。
「なんとかここまで来たけどさ、これからも長いぞ」
僕が言いました。
S君と僕は小中学校の同級生です。
この歳になるまで、ずーーーーっと遊んできました。
半世紀以上も互いの人生を見て来たことになります。
彼はフリーのカメラマン、僕はフリーのライター。
遊びだけではなく、仕事も一緒にしてきました。
でも僕らの共通項は、それだけではありません。
互いに、人生へのコンプレックスを抱いていることです。
サラリーマンになれなかった “落ちこぼれ組” なのです。
「だからってさ、“負け組” にはなりたくないよな」
「ああ、しいて言うなら “逃げ切り組” だな」
「このまま逃げ切ってやろうじゃないの!」
僕らは酒を呑み交わすたびに、互いの傷をなめ合って生きてきたのであります。
5年前、僕らは還暦を迎えました。
同級生たちは、早々に定年退職した者、再雇用で会社にしがみついた者に分かれました。
でも僕らの毎日は、一向に変わりません。
“我が道をゆく”
といえばカッコイイのですが、悲しいかな、他の道がないだけなのです。
あれから5年……。
再雇用組の同級生たちも、いよいよ今年度をもって満期終了となります。
人生のゴールを迎える年となりました。
S君が言った 「とりあえず」 とは、“今年度” を迎えたということなのです。
もし僕らもサラリーマンを続けていたら、退職金をもらって、悠々自適の老後生活を手に入れる頃なのです。
だから僕らは、この時を節目に “逃げ切ろう” としていたのです。
「よく逃げ切ったよな」
「まったくだ」
そう言って、僕らは夏空を見上げました。
人生100年時代……
まだまだ先はあります。
退職金も無く、微々たる年金だけでは、食うことすらままなりません。
「まだまだ逃げますか?」
「もう逃げなくてもいいんじゃない?」
Posted by 小暮 淳 at 12:43│Comments(0)
│つれづれ