2024年03月07日
カメの恩返し
友人から、こんなメールが届きました。
<伊豆へ行ってきました。無事にカメちゃんたちを届けました。若干感傷的になったけど、狭い水槽から広い世界へ彼らが行けて良かった。>
ブログを読んでいる読者なら、何のことか分かりますよね。
先日アップした、大きくなってしまったミドリガメの話の続報です。
(2024年3月5日 「カメとの別れ」 参照)
このメールが届いたとき、僕の妄想が始まりました。
昔々、令和の世のこと。
あるところに、心優しい一家が暮らしていました。
主人は町はずれで、小さいな工場を営んでいました。
ある夜のこと、工場の戸を叩く音がしました。
コツン、コツン、コツン
「こんな夜遅くに、誰だろう?」
主人が戸を開けると、外には誰も居ません。
「なんだ、気のせいだったのか……」
と、戸を閉めようとした時です。
「私です。ご主人さま」
蚊の鳴くような小さな声がしました。
足元を見て、ビックリしました。
そこには緑色をした大きなカメがいたのです。
「ご主人さま、お懐かしゅうございます」
「あ、お前は!?」
「はい、長年、飼っていただいたミドリガメでございます」
カメは涙を流しています。
つられて主人も涙を流し、カメに抱き着きました。
「おお、元気だったのか! 今日は、どうして、ここに?」
「はい、お迎えに上がりました」
「この私をかい?」
「はい、お連れしたいところがあります。さあ、私の背中にお乗りください」
と言うと、カメはクルリと向きを換えました。
ノッソ、ノッソ、ノッソ……
カメは歩き出しました。
「えっ、このスピードなの? 空を飛んだりしないの?」
「はい、私はカメですから、歩みは遅いのです」
ノッソ、ノッソ、ノッソ……
しばらく行くと、前方に横たわる白い生き物がいます。
よく見ると、ウサギです。
「ウサギさん、お先に失礼しますよ」
カメは、そう言うと、寝ているウサギを横目に、ゆっくりと追い越しました。
やがてカメは、こんもりとした竹林の中へ入って行きました。
「ご主人さま、着きましたよ」
「着いたよって、ここは竹林の中じゃないか? てっきり私は、海の中の竜宮城へ連れて行ってくれるのかと思ったよ」
「いえいえ、私はウミガメじゃありませんので、泳げません」
「で、ここは、どこなんだね?」
暗闇の中でカメから降りると主人は、あたりを見渡しました。
遠くの方に、ぼんやりと明かりが見えます。
「あそこです。ご案内いたします」
「ん? いったい、ここは、どこなんだい?」
「はい、スズメのお宿です」
「スズメのお宿? 私はスズメなんて、助けてはいないよ」
するとカメは、言いました。
「難しいことは考えないでください。これは、おとぎ話です」
そう言って、宿の中へ入って行きました。
「ようこそ、ご主人さま~!」
色とりどりに化粧をしたスズメたちに出迎えられました。
「どうぞ、日頃のうっぷんを晴らして行ってくださいませ」
そう言うとスズメたちは、料理を運び、踊りを披露しました。
「これは、たまげたね。こんなところに、こんな店があるなんて!」
「ご主人さま、ここは、お店ではありませんよ。私が今日のために、ご主人さまだけに用意をしたパラダイスででございます。どうぞ、ゆっくり楽しんでいってくださいませ」
おいしい料理とお酒を呑んだ主人は、上機嫌です。
「なあ、カメよ。なんで、お前は私に、ここまでしてくれるのかい?」
カメは言いました。
「ほんの恩返しでございます」
「恩返し?」
「はい、私は、ご主人さま一家のおかげで、広い世界へ行くことができました。ありがとうございます。その恩返しでございます」
するとスズメたちが、主人の前に大きな箱と小さな箱を2つ持ってきました。
「これは、なんだい?」
「はい、私からのプレゼントです」
「でも2つあるね?」
「はい、大きなツヅラと小さなツヅラ、どちらにいたしますか?」
カメが言うと、主人は即答しました。
「こんな大きなのは持てないよ。私は小さいツヅラで十分だ」
「そう言うと思いましたよ、ご主人さまは。欲がないお方ですからね。真面目で正直者で、一生懸命に家族のために働いて、人が良くて、だまされてばかり。それでも困っている人がいると、自分のことは後にして、面倒を見てしまう、お人よし。でも、そこが、ご主人さまのいいところなんでよね。私は、そんなご主人さまに育ててもらって、大変幸せ者でした。どうぞ、小さいツヅラをお持ちください。あらかじめ小さい方に大金を詰めておきましたから」
その後、主人の工場は建て替えられて、あれよあれよのうちに大会社の社長になったとさ。
おしまい。
Mさん、そうなるといいですね。
Posted by 小暮 淳 at 11:47│Comments(0)
│つれづれ