2012年02月09日
不便だけど不快ではない
僕には、7歳年上の兄がいます。
東京で建築家をしているのですが、僕以上に “変わり者” です。
変わり者の僕が言うのですから、間違いないと思います。
建築家といっても、みなさんがイメージする建築家とは、だいぶ違います。
一応、一級建築士の資格は持っているのですが、
「一級建築士とかけて、靴の裏に張り付いた米粒と解く」
なーんて、自分で言ってますからね。
そのこころは?
「取っても食えない」
(ウマイ!)。
ま、そんな兄ですから、ふつうの家は設計しません。
ゆえに、施主も “変人” しか依頼しません。
でもね、兄のプライドにおいて、弟として代弁するならば、かつては、あの!あの!あの~~!超超超~大物ミュージシャンの別荘なんかも設計しているのですよ(ヒント:おげんきですか)。
ま、最近は景気の良い話は、とんと聞きませんがね。
で、その兄が、20年ほど昔に、前橋市の実家を設計しました。
その家というのが、まー、摩訶不思議で住みにくい、実験的建築物なのであります。
本人いわく、「他人の家だと断られるから、一番造ってみたい家を設計した」 とのことです。
その家とは、“玄関のない家”。
当時、僕と兄は中国を一緒に旅したことがありました。
兄の造った “玄関のない家” は、中国で見た伝統的家屋建築である 「四合院」 が基本になっているようです。
みなさんも、旅番組かなにかで、見たことがあると思います。
四方を家屋で囲まれていて、中庭を中心に何組もの家族が共同生活をする建物です。
ですから僕の実家は、門はありますが、玄関がありません。
ブロックで囲まれたサイコロ形をした要塞のようなカタマリがド~ンと建っています。
1階も2階もすべての部屋は中庭に向いていて、各部屋が独立しています。
ですから、部屋から部屋、部屋から台所、トイレ、風呂・・・へ移動する際は、すべて中庭を通らなくては行けません。
そう、雨の日はトイレや風呂へ行くのにも、家の中で傘をさします。
ま、こんなおかしな家ですから、新築当時は、さまざまなメディアが取材に来ました。
雑誌はもちろん、ついにはテレビ局が!
と、いっても普通の番組ではありれませんよ。
なんと、クイズ番組です。
レポーターの女性がマイクを持ってやってきて、
「さて、この家には一般の家にある、あるものがありません。それはなんでしょう?」
とスタジオの回答者に質問を投げかけます。
答えは 「玄関」 です。
カメラは、ズンズンと各部屋に入っていき、屋上でオヤジをつかまえました。
当時は、まだボケてはいませんから、かくしゃくとしてインタビューに答えていました。
レポーターが、「いちいち傘をさして部屋を移動するのって、不便じゃありませんか?」 と問いかけたときです。
オヤジは、待ってましたとばかりに、こう答えました。
「不便だけど、不快じゃありませんよ」
このコメントが受けました。
スタジオの回答者で、直木賞作家の志茂田景樹氏は、
「お父さんの言葉に感動しました! 不便だけど不快ではない暮らし。今の日本人が忘れていることですね」
と……。
現在でも、実家へ行くと不便を感じます。
年老いた両親には、なおのこと、この季節は寒さが骨身にしみる “不便” であります。
それでも “住めば都” であり、“雨風しのげるだけでありがたい” とも言います。
不便な家で、一生懸命に協力しながら生きている両親を見ていると、今でもオヤジがあのとき言った言葉を思い出すのであります。
“不便だけど不快ではない”
返せば、便利でも不快なものが、世の中にいっぱいあるということです。
今の世の中、こっちのほうが多いんじゃないだろうか。
実家へ行くたびに、そんなことを考える今日この頃です。
Posted by 小暮 淳 at 18:55│Comments(4)
│つれづれ
この記事へのコメント
身にしみる話しです。
もっとこんがらかっている自分がこっけいです。
ブログいつも楽しみにしてます。
もっとこんがらかっている自分がこっけいです。
ブログいつも楽しみにしてます。
Posted by bakushow at 2012年02月09日 23:51
bakushowさんへ
お久しぶりです。
その後、お元気ですか?
その “こっけい” さを表現してみてはいかがでしょうか?
また作品をお待ちしています。
お久しぶりです。
その後、お元気ですか?
その “こっけい” さを表現してみてはいかがでしょうか?
また作品をお待ちしています。
Posted by 小暮 at 2012年02月10日 00:52
んーー
深い家です
自然を24H感じられる家です
真冬のヒートショックが気になります
深い家です
自然を24H感じられる家です
真冬のヒートショックが気になります
Posted by ぴー at 2012年02月10日 09:24
ぴーさんへ
ええ、実家は完全に昭和の生活をしています。
兄いわく 「花鳥風月の家」 だそうです。
雨の日には雨に降られ、風の日には風に吹かれ・・・
五感が研ぎ澄まされる家です。
ええ、実家は完全に昭和の生活をしています。
兄いわく 「花鳥風月の家」 だそうです。
雨の日には雨に降られ、風の日には風に吹かれ・・・
五感が研ぎ澄まされる家です。
Posted by 小暮 at 2012年02月11日 01:33