2012年11月07日
上牧温泉 「旅籠 庄屋」
僕は昨年から、みなかみ町にある18の温泉地(宿泊施設のある温泉) の全75軒の宿泊施設(みなかみ町観光協会加入旅館) を1年半かけて、すべての宿をまわり、すべての “湯” に入って、本を書くという荒行に挑戦しています。
今年9月に、前半の2温泉地、水上温泉と猿ヶ京温泉の全宿(旅館・ホテル・民宿) 34軒を 『みなかみ18湯〔上〕』 として上毛新聞社より出版しました。
下巻に掲載予定の温泉地は、16カ所。
掲載予定の宿泊施設は、41軒です。
8月より後半の取材活動に入っていますが、今日現在、41軒中22軒の取材を終えました。
残り、あと19軒。
“終わりのない旅はない”
そう、自分に言い聞かせながら、この長い長い温泉巡礼の旅を楽しんでいます。
と、いうことで、昨日から2日間は、旧月夜野町の上牧(かみもく)温泉に入り込み、取材活動を続けてきました。
そして昨晩は、ご厚意により 「旅籠 庄屋」 に泊めていただきました。
上牧温泉には、現在5軒の宿がありますが、「旅籠 庄屋」 を訪れるのは初めてです。
それだけで、もう、どんな話が飛び出してくるのか、ワクワクしながら伺ったのであります。
とにかく門構えからして、圧巻であります。
両脇の提灯にも、「上州 月夜野 清水街道 旅籠」 の文字が・・・
門をくぐると、正面に古民家を解体した木材で建てられたという見事な 「せがい出し梁(はり)造り」 の母屋が現れます。
「せがい出し梁造り」 は、群馬特有の養蚕農家に伝わる建築様式です。
「せがい」 とは、舟の舵(かじ) を漕ぐところのこと。
張り出した軒が似ているので、そう呼ばれているようです。
宿に着くと、「お待ちしていました」 と2代目女将の岡部綾子さんが出迎えてくれ、玄関脇の炉が切られた間で、茶を淹れてくれました。
着物姿と囲炉裏、窓の外に見える日本庭園が、似合い過ぎるくらいに似合っています。
「20年以上経って、やっと庭園らしくなってきました」
と女将さん。
もみじが色づいて、石灯籠や白壁の土塀と相まって、一幅の日本画のようであります。
同館の前身は古くからこの地にあった 「上牧荘」 といい、昭和41(1966)年に女将の祖父が買い取り、経営を引き継ぎました。
同55年に、自宅として現在の母屋を建築。
その後、老朽化により 「上牧荘」 を廃業・解体。同61年より自宅を改造して「旅籠 庄屋」 を開業しました。
部屋数は、たったの4室。
昨晩、僕とカメラマンは、中庭に建つ蔵部屋に泊めていただきました。
これが素晴らしい!
長火鉢に炭を入れ、鉄瓶で湯を沸かして、茶を淹れます。
照明は、すべて電球で、温かい色の光に包まれています。
1階は茶の間、2階が和室の寝室となるメゾネットタイプ。
子供の頃、父の実家の蔵で遊んだ記憶が蘇ってきたのであります。
そして、特筆すべきは 「湯殿」 です。
あえて 「湯殿」 と呼びたくなる浴室は、まるで湯治場の湯小屋といった風情。
2つある浴室は、どちらも貸切ですが、小さいながらに実に良くできているのです。
まず、脱衣場がありません。
湯舟の脇に、脱衣棚があるだけ。
洗い場と脱衣棚は、さりげなく衝立(ついたて) のみで、仕切られています。
窓は、すべて木枠の昔窓です。
湯気抜きの高い天井窓も、湯殿情緒を醸し出しています。
湯縁はもちろん、湯床までもが、全面総ヒノキ張り。
そして、当然、源泉は掛け流しです。
1日限定4組の小さな宿だからこそできる、贅沢(ぜいたく) の極みであります。
朝な夕なに、この贅沢な湯と、空間と、時間を存分に堪能してきました。
女将さん、ご主人、大変お世話になりました。
取材協力、ありがとうございます
Posted by 小暮 淳 at 21:14│Comments(2)
│温泉地・旅館
この記事へのコメント
上牧荘が懐かしいです。川におりて小さな魚を捕まえようとしたり。はるか昔の思い出になってしまいました。庄屋さんがその後なのですね。
Posted by 古沢 at 2022年10月15日 12:18
古沢さんへ
「上牧荘」を、ご存じなのですね。
ぜひ、「庄屋」を訪ねてみてください。
お孫さんが経営している宿ですから、懐かしがると思いますよ。
「上牧荘」を、ご存じなのですね。
ぜひ、「庄屋」を訪ねてみてください。
お孫さんが経営している宿ですから、懐かしがると思いますよ。
Posted by 小暮 淳 at 2022年10月15日 20:08