2013年06月29日
さまよう幽霊文
これは職業柄かもしれませんが、雑誌や新聞を読んでいて、ときどき気になる文章があります。
それは、誰が書いているのだか分からない 「幽霊文」 です。
先日も、雑誌を読んでいて、こんな文章をみつけました。
<私は、○○のような高級旅館だったら、わずかな額でもご祝儀袋に入れて渡すことにしている。>
と、「旅のワンポイントアドバイス」 とタイトルの付いたコラム風の記事でした。
旅先でのチップの有無の話を書いているのであります。
文章自体は、とっても分かりやすく、大変ためになる事柄が書かれていました。
ただ、「私」 と一人称で書かれているのに、ライターの名前がありません!
もしかしたら、ライターではなく、編集者が書いているのかもしれません。
だったら、なおのこと、この文章は三人称の文体で書かれなくてはなりません。
これでは、声は聞こえど、姿が見えない幽霊と同じです。
読者への配慮が足りない企画だと言えるでしょう。
たとえ、「私」「僕」 の一人称の文体で書かれていなくても、「筆者は誰だ?」 と尋ねたくなる文章というのもあります。
これは最近、某新聞の紙面で見つけた、「登山ガイド」 の記事です。
<下山後は○○温泉街にあるそば屋で昼食。共同浴場で汗を流した。>
とあるが、温泉で汗を流したのは、誰ですか?
記者の名前はありませんが、完全なる一人称の文体です。
これでは、読んでいる人は、消化不良を起こしてしまいます。
山を登ったのは、男なのか? 女なのか?
若い人なのか? 年配者なのか?
まったく、分かりません!
文末を、こんな文章でまとめています。
<登山と温泉をセットで楽しめるのも△△山の魅力だ。>
と。
このことが言いたいばかりに、記者は自分の体験談として 「汗を流した」 という一人称を使ってしまったようです。
本来、無記名の記事ならば、ここは 「下山後は、共同浴場で汗を流すこともできる」 などと、三人称で書かなくてはなりません。
最近は、書いた記事に責任を持たせるために、文末に記者の名前を入れる新聞もありますが、まだまだ少数派のようです。
どうか、記者やライターのみなさん、記名文と無記名文での文章の書き分けをしてください。
少なくとも、「おいしい」「まずい」 といった嗜好や、「嬉しい」「悲しい」 といった感情を入れた文章は、必ず記名でなくてはなりません。
誰が食べているのか?
誰が感じたのか?
できれば名前だけでなく、生まれ年や出身地などの簡単なプロフィールがあると、よりリアリティーをもって、読者へ伝わるんですけどね。
せめて性別と年代だけでも、記載してほしいものです。
Posted by 小暮 淳 at 20:47│Comments(0)
│執筆余談