2017年03月04日
亡夫の湯心を抱いて
僕は現在、年間20~30回の講演やセミナーを行っています。
依頼主は企業や団体、市町村などまちまちで、その会場の規模もさまざまです。
大きなところは200人以上が入る会館のホールだったりしますが、小さいところだと20~30人も入ればいっぱいになってしまう公民館や集会所だったりします。
今週は、両極端な2会場で講演を行ってきました。
昨日の上毛新聞に記事として載ったので、知っている人もいるかも知れませんが、1日(水) に群馬銀行本店の大会議室で、ぐんぎん証券の開業を記念した講演会に、講師として招かれ講話をしてきました。
新聞発表によれば、約160人も聴講者があったとのことです。
大きな会場では、あまり観客の顔が見えないので、自分勝手に話を進めることが多いですね。
それなりの充足感は得られるのですが、終演後はすぐに控え室に入ってしまうため、主催者側の人としかコミュニケーションがとれないのが、僕としては残念です。
それに比べるて公民館主催による小さな講演会は、とても和気あいあいで楽しいものです。
周辺住民がお菓子や手作り惣菜を持ち寄って、終演後に講師を囲んで “お茶会” を開いてくれることもあります。
今日も、そんな温かな講演会に招待されました。
会場は、前橋市総社公民館桜が丘集会所。
30人も入ればいっぱいの小さな会議室です。
演台と客席の距離も近く、時に掛け合い漫才のようなトークも飛び出し、何度も笑いに包まれました。
終演後のことです。
1人の高齢の婦人が、僕の著書を手に、サインを求めて来ました。
『ぐんまの源泉一軒宿』(2009年) と 『群馬の小さな温泉』(2010年) でした。
2冊とも真新しいのですが、いくつも付箋紙が貼られていました。
「主人が6年前に亡くなりまして、遺品を整理していた時に、先生の本が出てきました。行きたかった温泉に付箋を貼っていたようです」
と開いたページには、所々、赤いラインマーカーで線が引かれていました。
「この中で生前、夫に連れて行ってもらったのは、沢渡温泉の龍鳴館だけでした。その後、すぐに亡くなってしまいましたから……」
6年前といえば、2011年です。
この年の9月に僕は、シリーズ3冊目となる 『あなたにも教えたい四万温泉』 を出版しています。
ということは、この方のご主人は、本が出版される前に亡くなったということです。
「今日、先生にお会いできたのをきっかけに、主人が行きたかった温泉をめぐってみようと思います。今日は本当に素敵なお話をありがとうございました」
そう言って婦人は、深々とお辞儀をすると、胸に2冊の本を抱えて会場を出て行きました。
なんとも不思議な縁であります。
もし、ご主人が生きていられたら、今日の講演会には2人で来られていたかもしれませんね。
そして、シリーズ8冊全部を持って、サインを求められたかもしれません。
でも、その本は、きっと今日持って来られたような真新しさはなかったでしょうね。
たかが温泉、されど温泉。
温泉が引き合わせてくれた、心温まる出会いでした。
Posted by 小暮 淳 at 21:32│Comments(2)
│講演・セミナー
この記事へのコメント
いいご夫婦
たぶんワタシが先なら、旦那は付箋が多すぎてあきらめるでしょう。
たぶんワタシが先なら、旦那は付箋が多すぎてあきらめるでしょう。
Posted by ぴー at 2017年03月05日 10:15
ぴーさんへ
ちょっと感動してしまいました。
まるでダインメッセージのよう。
婦人は僕のことは知らず、ご主人の遺品の著者の講演会だと知って来られたようです。
本当はご主人も長生きして、婦人と付箋紙の温泉をめぐりたかったことでしょうね。
さぞかし無念だったと思います。
ちょっと感動してしまいました。
まるでダインメッセージのよう。
婦人は僕のことは知らず、ご主人の遺品の著者の講演会だと知って来られたようです。
本当はご主人も長生きして、婦人と付箋紙の温泉をめぐりたかったことでしょうね。
さぞかし無念だったと思います。
Posted by 小暮 淳
at 2017年03月05日 22:36
