2021年06月28日
湯守の女房 (15) 「安心で安全な食材を使って、自分の納得した料理を提供したい」
尻焼温泉 「白根の見える丘」 (中之条町)
草津白根山に源を持つ長笹沢(ながざささわ)川には、川床から温泉が湧く野天(のてん)の川風呂がある。
座ると尻が熱くなることから 「尻焼(しりやき)」 の名が付いたといわれる。
宿がある中之条町入山の根広(ねひろ)地区は、川から高低差で約80メートル。
草履や筵(むしろ)づくりなど伝承文化に触れることができる 「ねどふみの里」 という体験施設がある。
「ねどふみ」 とは、材料のスゲやカヤを温泉に浸け、足で踏んでやわらかくすること。
「昔は旧六合(くに)村 (現・中之条町) のどの地区でも行われていたが、今はこの集落だけ」
と2代目の中村善弘さんは語る。
根広地区は源泉の権利を共有し、約20戸のすべての民家に温泉が引かれている。
宿の創業は昭和49(1974)年。
野反湖でキャンプ場の管理人をしていた父・弘治さん (故人) が、善弘さんの高校卒業を機に営業を始めた。
草津白根山が望めることから2年前、創業時の 「白根ハイツ」 から 「白根の見える丘」 に改名した。
調理室で割烹着姿の女将、ひろ子さんが豆腐を作っていた。
草津町の出身。
温泉街でバンド演奏をしていた善弘さんに見初められた。
豆腐作りは、子育てが終わった10年ほど前、先代女将の義母から教わった。
「かつては六合の女は、みな豆腐が作れた。だから抵抗はなかった」
と、ひろ子さん。
水は、善弘さんが往復4時間かけてくんできた東吾妻町の名水 「箱島湧水」。
大豆は、赤城山麓の前橋市粕川町産など。
市販豆腐の約3倍の大豆を使う。
約15時間、湧水に浸けた大豆を機械で粉砕し、約25分間、灰汁(あく)を取りながら大鍋でかき混ぜる。
布でしぼり、にがりを投入して、待つこと約20分。
固まり出した豆乳を型に入れ、重しをして約45分。
やっと1日限定12丁の木綿豆腐が、できあがった。
「私自身が素性の分からない物を口にしたくないんです。安心で安全な食材を使って、自分の納得した料理を提供したい」
と、出来立ての豆腐を手に、相好を崩した。
夕食まで間があるので、源泉かけ流しの露天風呂に。
湯舟のそばに、3センチ角のヒノキのブロックが300~400個入った箱が置かれている。
ブロックをを湯に浮かせると香りが楽しめるだけでなく、湯が冷めづらくなるという。
夕日に照らされて、遠くの山々が稜線を際立てている。
湯から上がったら、濃厚な味の手作り豆腐が待っている。
これを岩塩とオリーブオイルでいただく。
ビールとの相性も抜群のはずだ。
<2011年10月26日付>
Posted by 小暮 淳 at 12:07│Comments(0)
│湯守の女房