2024年04月19日
あくがれの墓参り
≪聞きゐつつたのしくもあるか松風の 今は夢ともうつつともきこゆ≫ 牧水
趣味と実益を兼ねた生き方をしてきたおかげで、気が付いたら僕は、群馬県内4つの 「温泉大使」 と 「ぐんまの地酒大使」 を仰せつかっていました。
“温泉と地酒”
よく似合います。
これに “旅” が加われば、なお素晴らしき。
あくがれ(※)てしまいます。
そんな生き方をした人に、明治・大正の歌人、若山牧水がいます。
牧水は明治18(1885)年、宮崎県の生まれ。
自然と旅と酒を愛し、全国をめぐりました。
群馬県には8回訪問。
延べ60日間滞在し、13編の紀行文と約400の歌を残しました。
最も有名な紀行文が 『みなかみ紀行』 です。
大変おこがましいのですが、共に湯と酒を愛する者として、いつしか僕にとって牧水は “心の師” となっていました。
そして、気が付いたら牧水をテーマにした講演や連載を手がけるようになっていたのです。
「一度、ちゃんと牧水さんにお礼が言いたい」
その夢が、やっと叶いました。
静岡県沼津市。
この街にある千本山乗運寺の境内に、牧水は眠っています。
昭和3(1928)年9月17日、大酒呑みがたたり、急性腸胃炎兼肝臓肝硬変症のため43歳の若さで永眠しました。
冒頭の歌は、墓石前に立つ歌碑に詠まれていました。
「牧水さん、初めてお目にかかります。全国にあまたといるファンの一人です。あなたが愛してくださった群馬県より、はるばる会いに来ました。私は今、あなたが群馬で見て触れて、浸かって呑んだ “温泉と地酒” をテーマに取材を続けている物書きの端くれです。どうか、お許しいただき、寛大なお心で、見守ってくださいますようお願い申し上げます」
と、墓前で手を合わせました。
すると、どうでしょう!
木々を揺らして、一陣の薫風が杜を抜けて行きました。
「ああ、牧水さん! ありがとうございます」
風に誘われるようにして僕は、その足で牧水が愛した千本松原を訪ねました。
※【憧(あくが)る】 物事に心を奪われて落ちつかない。そわそわする。 (広辞苑より)
Posted by 小暮 淳 at 11:52│Comments(0)
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