2024年07月20日
知らぬが仏のホールインワン
「えっ、行ったの!?」
僕には信じられませんでした。
待ち合わせの呑み屋に遅れて来た彼は、朝から雨だったこの日、ゴルフをしてきたというのです。
しかも、合羽を着て回ったといいます。
趣味に夢中になるって、そういうことなんでしょうね。
興味のない人には、まったく理解できませんが、好きな人にとっては、その日が、たとえ雨でも嵐でも、やらずにはいられないのでしょう。
僕は、生まれてこの方、一度もゴルフをしたことがありません。
なのに、その昔、ゴルフ雑誌の記者をしていた時期がありました。
群馬県と埼玉県にある系列ゴルフ場の会員向け広報誌です。
30年以上も前のこと。
当時、僕はタウン誌の編集者でした。
会社の都合で、この広報誌を請け負うことになりました。
「小暮君、頼む」
の編集長のひと言で、僕が担当になってしまいました。
でも前述のように、僕はまったくゴルフをしたことがありません。
それどころか、ゴルフのゴの字も興味がありません。
置いた球を打って、穴に入れる。
知っていることといえば、それくらいのこと。
さあ、大変だ!
あわててゴルフ関連の本を買い集め、にわかで用語やルール等の基礎知識を叩き込みました。
各ゴルフ場をまわり、レストランや売店などの施設情報を紹介。
最初は、その程度の取材でしたが、やがてコンペやトーナメントに同行して、コースを会員と一緒に回る記事を書かされることに。
「記者さん、次は何番アイアン?」
なんて、参加者から聞かれることも、たびたび。
まさか、ゴルフ記者が 「ゴルフをしたことがないんで、わかりません」 とは言えず、そのたびに聞こえなかったふりをしてごまかしたものです。
そして、ついに絶体絶命のピンチが訪れました。
プロに同行して、レッスンの模様を解説する記事を書くことになったのです。
「ダメです。僕には書けません」
と言っても、
「大丈夫、大丈夫! 見たままを書けばいいんだから」
と編集長は、無責任に僕を突っぱねます。
我がライター人生で、最悪の取材となりました。
当日、肩から録音機を下げて、プロの後ろに立ち、ただマイクを向けるだけ。
「プロ、今のショット、ご説明願います」
「ここで注意することは?」
なんて、あたりさわりのない質問をして、ただただ時が過ぎゆくのを耐えるしかありませんでした。
ところが記事になって掲載されると、反響がありました。
「小暮君、いいね。この調子で頼むよ」
「えっ、どういうことですか?」
「好評につき、シリーズ化だってよ。頑張ってくれたまえ」
ガーーーーーーーーーーーーン!!!
苦痛以外の何物でもない仕事が、評判がいいだなんて!
知らぬが仏の無知ゆえのホールインワンであります。
その後、バブルがはじけ、ゴルフ場は斜陽に。
広報誌も廃刊となりました。
今となっては、ライター稼業の血となり肉となり骨となった忘れえぬ経験です。
Posted by 小暮 淳 at 11:33│Comments(0)
│執筆余談