2010年10月29日
島人たちの唄⑤ 「海の神様」(上)
わっしょい、わっしょい!
ワッショイ、ワッショイ!
青い法被(はっぴ)に赤く「祭」の文字が染め抜かれた、揃いの衣装で子供神輿(みこし)がねり歩く。
丘の方から、浜の方から、港を目指して集まってくる。
今日は、年に一度の「ぎおんまつり」の日だ。
港のお祭広場では、かわいいピンクの法被を着た幼稚園児たちの踊りが始まった。
人口2000人余りの孤島にしては、子供の数の多さが目にとまる。
ジーンズ姿に茶髪の若いお父さんやお母さんが多いのも、この島の特徴だ。
全国の漁村の中で、群を抜いて若者の漁業就業率が高い篠島ならではの光景である。
えーんやこーら、えーんやこーら!
エーンヤコーラ、エーンヤコーラ!
広場の中央に鎮座していた舟形の山車(だし)が、動き出した。
今度は、大人も子供も一緒に、紅白の綱を引く。
えーんやこーら、えーんやこーら!
エーンヤコーラ、エーンヤコーラ!
音頭をとるのは、島外から赴任して来ている小学校の先生だ。
島でたった一人の駐在さんも、山車の後から声をかける。
「カメラ屋さ~ん、来とったんか」
小学校5年生のランちゃんが手を振った。民宿のお孫さんだ。
いつしか僕らのことを、そう呼ぶようになっていた。
港から城山をぐるりと回り、淡黄色の美しい砂浜がつづく前浜(ないば)の浜通りをゆく。
やがて山車は海の神様、八王子社にたどり着いた。
昔から島の漁師たちは、海が荒れて漁に出られない日がつづくと、この八王子様にすがった。
すると、海は凪(な)ぎ、船を出すと大漁がさずかったという。
山車が奉納されると、漁師たちは浜で神主とともに海に向かい、祝詞(のりと)をあげた。
また静かな、いつもの島がもどってきた。
その夜、港から打ち上げられる花火は、「ぎおんさま」の送り火。
海面に映す、いくつもの大輪の花を眺めながら、島人たちは海の安全と大漁を祈った。
今年も島の夏が、やってきた。
Posted by 小暮 淳 at 10:56│Comments(0)
│島人たちの唄