2011年03月01日
島人たちの唄⑩ 「小女子とクラゲと島の春」
朝夕はまだ冷えるが、それでも3月ともなれば三河湾は、もう春の装いだ。
港の朝は早く、小女子(コウナゴ)漁に活気づいていた。
網を張った簀(す)の子が、地べたが見えなくなるまで港の護岸一面に並べられ、その眺めは気持ちいいほどに圧巻だ。
次から次へと女衆が、加工所の中から籠いっぱいに蒸された小女子を抱えてやって来る。
その手さばきの素早さといったらない。
老いも若きも一緒になって、一列また一列と簀の子を小女子で満たしていく。
「ははは、そんなにオモシレーかい? こっちは毎日、エライことだわ」
一番年配の女性が、見ている僕に言った。
港の隅では、網を繕(つくろ)う男たち。
時間は、まだ午前7時。
「早かったんですね」
と声をかけると、
「この時季は、クラゲがようけ(たくさん)入るもんでね。網が破けるんよ。今日はもう、漁ができんで、帰ってきた」
と、せっせと網の補修に余念がない。
日に焼けた、テカテカの顔が笑っている。
「クラゲは漁師の敵だ」
と言ったが、毎度のことのようで、落胆の様子は微塵(みじん)もない。
午前4時に出港、7時間ほど漁をして、通常なら昼に戻るはずだったらしい。
「コウナゴはもう大きいもんで、そろそろおしまいだい。4月からは、シロメが始まる」
チリメンジャコ(しらす干し)の原料になるカタクチイワシの稚魚のことを、地元では「シロメ」と呼ぶ。
シロメの漁期は4月から11月までと長期にわたり、渥美半島沖の外海で行われる。
篠島の水揚げの半分以上を占める基幹漁業だ。
船が港へ入ってくる。
何十羽というウミカモメの群れを従えて。
海鳥たちは、船に何が積まれているかを知っているからだ。
頭上高いところでは、やはりおこぼれを狙って、トンビが何羽も旋回を繰り返している。
父親の船の帰りを、家族総出で出迎える。
脂ののった、少し大ぶりの小女子が水揚げされた。
思ったほど、数は多くない。
「(漁が始まって)もう1ヶ月でしょう。1日1ミリずつ大きくなっちゃうのよ。先月は1日平均100万(円)になっただいね。今は、その10分の1。小さいほうが高く売れるけど、煮て食べるには、このくらいが旨くていいけどね」
そう言って、漁師の妻は、伝票を握りしめながら市場を出て行った。
桜の咲く頃、港はまたサクラダイ漁で活気立つ。
島の春は、元気だ。
Posted by 小暮 淳 at 09:54│Comments(4)
│島人たちの唄
この記事へのコメント
春の港と 人々ですか(゚-゚)
情緒を感じる 見事な文章で
もうすぐ 桜が咲きますねd(^-^)
今年も オープンで 山里に咲く 名も無き桜に 会いに行くのが 楽しみ
情緒を感じる 見事な文章で
もうすぐ 桜が咲きますねd(^-^)
今年も オープンで 山里に咲く 名も無き桜に 会いに行くのが 楽しみ
Posted by momotaka at 2011年03月02日 20:32
春の港と 人々ですか(゚-゚)
情緒を感じる 見事な文章で
もうすぐ 桜が咲きますねd(^-^)
今年も オープンで 山里に咲く 名も無き桜に 会いに行くのが 楽しみ
情緒を感じる 見事な文章で
もうすぐ 桜が咲きますねd(^-^)
今年も オープンで 山里に咲く 名も無き桜に 会いに行くのが 楽しみ
Posted by momotaka at 2011年03月02日 20:32
(;^_^A ダブリました…
Posted by momotaka at 2011年03月02日 20:35
momotakaさんへ
大胡温泉の湯舟から眺める桜は、なかなかの圧巻ですよ。
大胡温泉の湯舟から眺める桜は、なかなかの圧巻ですよ。
Posted by 小暮 淳
at 2011年03月03日 14:11
