2011年09月08日
島人たちの唄⑬ 「ぼくと、ぼくらと篠島の夕日」(下)
篠島は、南北に細長い勾玉(まがたま)のような形をしている。
北部の埋立地区を除くと、ほとんどは起伏に富んだ山島だ。
民家は、わずかな平地と斜面に寄り添うように密集している。
港のある西側は知多半島を望み、渥美半島を望む東側には、前浜(ないば)と呼ばれる淡黄色の美しい砂浜が600メートルにわたり広がる。
一行は前浜で波とたわむれたのち、いよいよ島一番のビュースポットを目指して、山道に取りついた。
ヒールを履いているご婦人には気の毒な急斜面を、全員が息を切らして登り始めた。
登山道はすべて海に面している。
奇岩や砂浜、小さな属島が見えるたびに、方々から喚声が上がる。
そのたびに僕は、優越感に満たされた。
僕らが愛したこの島を、みんなが気に入ってくれたのが、うれしくて仕方がなかった。
やがて最南端の展望台へ。
正面には属島の一つ、野島が見える。
無人島だが、標高は篠島より高い。
さあ、ここからは下りだ。
足元に気をつけて!
折りしも、合わせたように日没の時刻。
てっぺんに松をあしらえた松島に、夕日の長い帯がかかり始めていた。
「万葉の丘」 から望む夕日は、「日本の夕日100選」 に選ばれている名所だ。
あまりの美しさか、一行から声は上がらない。
その代わり、各々がケータイを手に、シャッターを押し出した。
しばらく、みんな丘にたたずんでいた。
海面をのびてきた夕日の帯が、やがて僕らにとどき、みんなの顔を赤く染めていった。
宿の夕食時、誰もがケータイの待ち受け画面を見せ合い、その美しさを自慢しあっていた。
目の前には、刺身に始まり、唐揚げ、鍋、そして雑炊にいたるまで、フグフグフグのフグ三昧のフルコースがずら~りと並んだ。
篠島のフグは、日本有数の漁獲高を誇り、下関にも卸しているという、知る人ぞ知る名物である。
産地で直接手に入るから、良いものが安く手に入る。
だから、この量!
たぶんみんな、一人でこれだけのフグ料理を食べたことなんて、初めてじゃないのかな。
まっ、この僕だって、これだけこの島に来ていて、フグ刺しを遠慮なく箸ですくって食べたのは、初めてだけど……。
翌朝、みんなは早起きをして、今度は朝日を見に出かけたらしい。
あいにく僕は二日酔いで、それどころではなかったのだ。
でも、帰りはもう、添乗員はいらない。
小さな島だもの、思い思いに歩けばいい。
会長さんご夫妻の 「送りますよ」 の言葉をふりきって、誰もが港までの道を、歩き出していた。
< 「ぼくと、ぼくらと篠島の夕日」 完 >
Posted by 小暮 淳 at 14:07│Comments(4)
│島人たちの唄
この記事へのコメント
小暮さま、皆さまへ。
時間湯行って来ました。初めてなので温めの45℃でした。気持ち良かったです。
小暮さんの記事にまったく関係のないコメントしてすみません。
時間湯行って来ました。初めてなので温めの45℃でした。気持ち良かったです。
小暮さんの記事にまったく関係のないコメントしてすみません。
Posted by 草津っ娘? at 2011年09月08日 15:29
離れ小島かぁ・・・・ 行った事ないなぁ。
沖縄と佐渡島のみです。
今 思えば 沖縄で山田温泉に 入った記憶が、
どこに 行っても 温泉を求めるのは 本能なのでしょうか??
沖縄と佐渡島のみです。
今 思えば 沖縄で山田温泉に 入った記憶が、
どこに 行っても 温泉を求めるのは 本能なのでしょうか??
Posted by momotaka at 2011年09月08日 20:57
「完」お疲れ様でした
新刊本発売まで、無駄使い撲滅運動をして、障害なく(金欠)買いに行けるように日々過ごしています。
店が近所に無いのも手伝ってますが!(背中に鍋割を背をって)
師匠さま
もう9月ですね、今年も、気分はもう年末モードです。自営は。
年内にオフ会の実行は???
新刊本発売まで、無駄使い撲滅運動をして、障害なく(金欠)買いに行けるように日々過ごしています。
店が近所に無いのも手伝ってますが!(背中に鍋割を背をって)
師匠さま
もう9月ですね、今年も、気分はもう年末モードです。自営は。
年内にオフ会の実行は???
Posted by ぴー at 2011年09月09日 10:13
草津っ娘?さんへ
45℃は、充分に熱い!
僕は、無理です。
momotakaさんへ
篠島にも、温泉宿が1軒だけあるんですよ。
もちろん、塩化物泉。
今思えば、ただの海水だったのかも。
ぴーさんへ
ありがとうございます。
うれしいですね、節約までして、欲しいものも我慢して、本を買っていただけるなんて。
著者冥利に尽きます。感謝!
45℃は、充分に熱い!
僕は、無理です。
momotakaさんへ
篠島にも、温泉宿が1軒だけあるんですよ。
もちろん、塩化物泉。
今思えば、ただの海水だったのかも。
ぴーさんへ
ありがとうございます。
うれしいですね、節約までして、欲しいものも我慢して、本を買っていただけるなんて。
著者冥利に尽きます。感謝!
Posted by 小暮 淳
at 2011年09月09日 12:07
