2010年11月03日
島人たちの唄⑥ 「海の神様」(下)
「とーちゃ~ん!」
「おとうさーん!」
父親の船が見えると、浜で手を振る子どもたち。
島の小学生らによるマーチングバンドの演奏が、沿岸を行く船団を見送る。
「ぎおんまつり」の翌朝、何十隻もの漁船が、一斉に港を出て行った。
どの船も大漁旗を揚げ、満艦飾に彩られている。
中手島、小磯島と北の属島を回り、やがて沖に出ると、船の群れは一列となって、海上パレードを始めた。
「おお、行って来るぞー!」
漁盛丸の甲板でも、漁師たちが家族の声援に応えて、手を振った。
エンジンの音を上げて一気に加速すると、飛沫(しぶき) を上げながら船体を大きく旋回させて、一層その勇壮ぶりを誇示した。
すると浜では、ひと際大きな喚声が沸き起こった。
「あの島には洞窟があってな、お伊勢様まで続いていると言われてんだ」
漁師が指さした先には、切り立った頂を持つ野島がそびえていた。
無人島だが、標高は本島より高い。
野島社という神社が祀られ、漁師たちは新しい船の進水式には、必ずこの島を一周する。
ここ篠島は愛知県南知多町に属しているが、その昔は三重県の伊勢の国に属していたという。
現在でも、伊勢神宮に奉納する御弊鯛(おんべだい)という干鯛の調整所がある中手島だけは、篠島村より譲り受け、神宮の所管となっている。
「田んぼや畑には持ち主がいるが、海は誰のものでもねえ。わしら漁師は、海の神様に生かされてんだよ」
船団は、さらにスピードを上げて、野島を目指す。
島に近づくと、漁師たちは一斉に海に向かって御神酒(おみき)をまいた。
そして、海の安全と大漁を祈った。
Posted by 小暮 淳 at 17:02│Comments(0)
│島人たちの唄