2010年11月12日
謎学の旅⑬ 「十石犬を追え!」(下)
「今井さん、“沈みのある目” って言ったよね?」
僕は、犬好きのカメラマンに問いかけた。
「ああ、“明るい目” に対して “暗い目” とは言わなかった。沈みのある目、か……」
僕らは、今井さんの車にはぐれまいと、必死に後を追った。
下仁田町から南牧村へ。湯ノ沢トンネルを抜ければ、そこからが上野村です。
車は、国道沿いの家の前で、停まりました。
庭先に犬がつながれています。安中で見た十石犬に比べると、小柄でやさしい顔をしている。
名前は「ちび」、6ヵ月のメス。
「母親が小さかったからね、この子も体が小さい。交配は無理だろうな」
今井さんが、ひとり言のように言った。
上野村で十石犬の保存活動をしている今井さんは、十石犬の血を受け継いだ犬たちを交配させ、本来の十石犬の姿を取りもどそうとしています。
数年前までは、「一銃一犬」の狩りにも出かけていました。
代々そうやって、十石犬を猟犬として育て、その血を絶やすまいと守り続けてきたのです。
「十石犬は、“人に良く、(獲)物に強く” と言われ、人間には従順だけど、クマなどの獲物には一日中でも追回し、オヤジ(猟師)が射止めるまで戦う」
これが純血種の十石犬の姿だ。
現在、今井さんの献身的な交配により、血を受け継いだ十石犬が、村内に20頭ほどいます。
でも、そのすべてが本来の十石犬の特徴と本能を持ち合わせているわけではありません。
「本当の十石犬は、クサビを打ったような目をしている」
そう言って、今井さんは、「コロ」という名の犬に会わせてくれました。
14歳になる老犬ですが、確かに今まで見てきた十石犬とは、かもし出すオーラが違います。
胸が厚く、クマのような体型をしています。
目は、まさにクサビの形!
見つめていると吸い込まれてしまいそうな、深い沼のような目……
これが、今井さんの言う「沈みのある目」なのだ。
年老いたコロに代わって、現在は今井さん宅の若い「ゴロー」が、最も純血種に近い十石犬として、交配を行っています。
「十石犬にあらざれば、柴犬にあらず」
今井さんの言葉が、上野村を後にした僕らを、いつまでも追いかけて来ました。
※記事内容は2006年5月の取材時のものです。
Posted by 小暮 淳 at 11:11│Comments(0)
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