2015年12月14日
神様のおかげ
「やっぱり、神様はいるんだよ」
「えっ?」
朝食の最中に突然、オフクロが言い出しました。
「なんだよ、いきなり」
「夕べから、ずーっと考えていたんだけど……。でも、やっぱり神様はいるんだよ」
実は前の日の夜、オフクロとちょっとした言い合いになりまして、そのことを気に病んでいたようです。
夕食の時のことです。オフクロがこんなことを言いました。
「まさかお前が、物書きになるとはねぇ。てっきり音楽の道へ進むと思っていたよ」
確かに僕は10代の頃から作曲をしていて、学校も音楽の専門学校へ通っていました。
オフクロに言われるまでもなく、本人だって、そのつもりで20代を過ごしていました。
でも、人生には自分の思い通りに行かないことが、多々あるのです。
たまたま挫折の後に探し当てた人生が、“ライター” という職業だっただけのことです。
「でも良かったね」
「なにがさ?」
「好きな仕事に出合えてさ。本もたくさん書いて、人の喜ぶことをしているじゃないか」
そこで僕も 「そうだね」 と素直に言葉を返しておけば良かったのですが、ついつい仕事と介護の疲れからか、グチってしまったのであります。
「そのぶん、いまだに “貧乏ヒマなし” だけど」
するとオフクロは、
「大丈夫、神様は、ちゃんと見ているから」
出ました~! オフクロの十八番!
子どもの頃から、耳にタコができるほど聞かされてきた言葉です。
ふた言めには、「神様は見ている」 と言われて育ってきました。
「かーちゃんさ、本当に神様っているのかね? いても、オレのことは見てないんじゃないの?」
「なんで、そんなことを言うんだい? バチが当たるよ」
「もう、いいよ、その話! さっさと飯を食ってくれよ。いつまで経っても洗い物が終わらないだろ!」
実の親子ですから、虫の居所が悪いときだってあるのです。
僕も疲労からイライラしていたのかもしれません。
でも、そんな、たわいのない口論だったのです。
一夜明けて、僕のほうは、すっかり忘れていました。
「お前んちは、あんなにいい子が3人も授かったじゃないか」
「・・・」
「しかも、R (僕の長男) なんて、死んでいたかもしれないのに、助けてもらったじゃないか」
なんのことかと言えば、僕の長男は高校生のときに交通事故に遭って、3日間も意識が戻らない大ケガをしたのです。
ところが3日目に、パッと目を覚まして、あの世から返って来ました。
九死に一生とは、このことです。
「あれは、誰のおかげだい? 神様だろう? だから、やっぱり神様はいるんだよ」
そう言ってオフクロは、勝ち誇ったように食後のお茶を飲み干しました。
以来、僕は機嫌が悪くても、オフクロに当たるのをやめました。
だって、神様が見ているかもしれませんから。
Posted by 小暮 淳 at 21:36│Comments(2)
│つれづれ
この記事へのコメント
小暮さんの温泉談義に引かれて、読者になったけれど、
最近は、小暮さんの介護案件や、お子様やマロさんのお話に、
感涙です。
そんな小暮さんの書かれる温泉の話だから、とっても心の髄に響くのかもしれないです。どうぞおからだを大事にされてくださいね、これからもブログを楽しみにしております。。。
最近は、小暮さんの介護案件や、お子様やマロさんのお話に、
感涙です。
そんな小暮さんの書かれる温泉の話だから、とっても心の髄に響くのかもしれないです。どうぞおからだを大事にされてくださいね、これからもブログを楽しみにしております。。。
Posted by ムク at 2015年12月15日 01:44
ムクさんへ
いつも、ご愛読ありがとうございます。
ムクさんのような読者がいるから、このブログを書き続けることができるのですね。
ただただ感謝であります。
つれづれなるままに、思うままに、今後も綴っていこうと思います。
よろしくお願いいたします。
いつも、ご愛読ありがとうございます。
ムクさんのような読者がいるから、このブログを書き続けることができるのですね。
ただただ感謝であります。
つれづれなるままに、思うままに、今後も綴っていこうと思います。
よろしくお願いいたします。
Posted by 小暮 淳
at 2015年12月16日 00:22
