2019年10月21日
秋深し我は何をする人ぞ
「やっぱりね。お前は、そっちの道に進むと思ったよ」
22年前の秋のことです。
処女作のエッセイ本を出版したときに、オフクロからかけられた言葉でした。
僕の子どもの頃の夢は、コックさんでした。
中学生になり音楽に目覚め、ギターを弾いて、ピアノを習い、そのまま高校卒業後は東京へ出て音楽学校へ進み、ミュージシャンの道を目指しました。
紆余曲折があり、挫折を繰り返し、30歳を目前に飛び込んだのが雑誌編集の世界でした。
オフクロの言葉は、続きます。
「毎日、お前を連れて図書館に通ったんだもの」
はるか遠い記憶が、よみがえりました。
幼少期のことです。
当時まだ市立図書館には、幼児コーナーはあっても児童本のコーナーはありませんでした。
絵本ではなく、文字の多い児童本は、大人の本と一緒に並んでいたのです。
その中からオフクロは、僕が読めそうな本を選んで、せっせと借り与えてくれました。
本を読むことが面白くて面白くて、一日で読んでしまい、翌日には返して、また借りてくるのですから、やがて図書館内の児童書はすべて読み尽くしてしまいました。
するとオフクロは大きな書店へ行き、まだ図書館に置いてない本を調べては、「購入希望本」 のリストを書いて図書館に提出していました。
その甲斐あってか、図書館に児童書のコーナーが誕生しました。
僕は子ども時代、読書をするのに大変恵まれた環境に育ちました。
オヤジの職業は、当時では珍しい私塾経営だったのです。
ですから書籍は資料とみなされるため、僕とアニキにはいつも 「本はいくら買ってきてもいいぞ!(経費で落とせるから)」と言っていました。
江戸川乱歩、コナン・ドイル、モーリス・ルブラン……
夢中になって読むがあまり、小学生になってからは本屋さんに日参するようになりました。
「えっ、昨日の本、もう読んじゃったのかい?」
近所の本屋のオヤジさんに、驚かれたものでした。
それでもオヤジにレシートを渡せば、快く代金をくれました。
まるで “無限財布” を手に入れたようで、「早く読んで、また本を買いに行こう!」 と淳少年は読書に、のめり込んで行ったのです。
あれから半世紀が経ちました。
本を出版するたびに喜んでくれた両親は、もう今はいません。
それでも、こうやって好きな本に囲まれて、そして文章を書くことを生業にする暮らしを続けています。
“三つ子の魂 百まで” とは、よく言ったものです。
おかげで楽しい人生を手に入れることができました。
オヤジ、オフクロ、ありがとう!
さて、秋もだいぶ深まってきました。
夜長に読書を楽しみたいと思います。
Posted by 小暮 淳 at 11:39│Comments(4)
│つれづれ
この記事へのコメント
秋の夜長に読書が出来るなんて、羨ましいかぎりです。
自宅に帰ると、先ずはテレビを付け、時代に遅れないようにと、つまらないテレビを見る。
夕食、お風呂が済んで、布団に入って読書を始めると5分もしないうちに、寝入ってしまう。
唯一の読書タイムが昼飯の1時間。それも最近では、ユーチューブという強敵が現れ、読書より早く、知りたいことを教えてくれる。
どうしたら、楽しい読書タイムを作れるのでしょうか。
自宅に帰ると、先ずはテレビを付け、時代に遅れないようにと、つまらないテレビを見る。
夕食、お風呂が済んで、布団に入って読書を始めると5分もしないうちに、寝入ってしまう。
唯一の読書タイムが昼飯の1時間。それも最近では、ユーチューブという強敵が現れ、読書より早く、知りたいことを教えてくれる。
どうしたら、楽しい読書タイムを作れるのでしょうか。
Posted by ヒロ坊 at 2019年10月21日 12:32
ヒロ坊さんへ
現代は “情報過多” に加え、“便利過多” の世の中になっています。
本当ならば便利になれば、その分、余裕が生まれるはずなのですが、そこに必要外の雑多な情報までもが入り込んで来るため、結局、現代人は時間を失ってしまっています。
そんな社会の中で読書は、手間をかけた原始的な方法でありながら、想像力を働かせながら楽しめる最高の情報収集手段だと思っています。
何より、優雅な時間を感じます。
ぜひ、スマホとパソコンとテレビのスイッチを切って、至福の時間を手に入れてください。
現代は “情報過多” に加え、“便利過多” の世の中になっています。
本当ならば便利になれば、その分、余裕が生まれるはずなのですが、そこに必要外の雑多な情報までもが入り込んで来るため、結局、現代人は時間を失ってしまっています。
そんな社会の中で読書は、手間をかけた原始的な方法でありながら、想像力を働かせながら楽しめる最高の情報収集手段だと思っています。
何より、優雅な時間を感じます。
ぜひ、スマホとパソコンとテレビのスイッチを切って、至福の時間を手に入れてください。
Posted by 小暮 淳 at 2019年10月22日 21:18
スマホ、テレビをなくすと、ラジオになり、ロックCDとなり
まだまだ修行!と老眼鏡で書籍との格闘(字が小さくて読めないと言いながら)
なかなか穏やかな人生は遠いいようです。
まだまだ修行!と老眼鏡で書籍との格闘(字が小さくて読めないと言いながら)
なかなか穏やかな人生は遠いいようです。
Posted by ぴー at 2019年10月23日 14:41
ぴーさんへ
現代社会は、誘惑で満ちあふれています。
受験勉強と同じで、人より抜きん出ようとすれば、この誘惑に勝つしかありません。
自ら探し求めないと、なかなか欲しい情報が手に入らなかった昭和の時代が懐かしいですね!
現代社会は、誘惑で満ちあふれています。
受験勉強と同じで、人より抜きん出ようとすれば、この誘惑に勝つしかありません。
自ら探し求めないと、なかなか欲しい情報が手に入らなかった昭和の時代が懐かしいですね!
Posted by 小暮 淳 at 2019年10月23日 18:32