2020年01月21日
源泉ひとりじめ(8) 吊り橋の向こう岸に、もうもうと上がる湯煙が見えた。
癒しの一軒宿(8) 源泉ひとりじめ
湯の平温泉 「松泉閣」 六合村(現・中之条町)
「秘湯」 という言葉の響きに、そこはかとなく惹かれる。
たどり着いたとき、自分だけの隠れ家を見つけたようで、ほくそ笑みさえ覚えるのである。
現在、中間法人 「日本秘湯を守る会」 に加盟している旅館は、全国で157軒(平成16年5月現在)。
群馬県内には13の会員旅館があるが、なかでも湯の平温泉は、秘湯中の秘湯といえる。
深い谷である。
揺れる赤い吊り橋を、恐々と渡る。
覗き込むと目が覚めるような鮮やかなコバルトブルー色をした白砂川が、湖のような静けさでゆっくりと流れている。
対岸の川原に泉源があるようだ。
もうもうと湯煙が上がっている。
目を凝らすと、川岸のあちこちから湯気が立ち昇るのが見えた。
橋を渡った対岸からは、急な登りとなる。
駐車場に車を置いて、木立の中を歩き続けて10数分……。
額にうっすら汗がにじみ、肩で息をしはじめた頃、やっと宿の玄関が見えてきた。
「滅多に取材は受けないんですよ。たった3人でやっている宿だから、大きい旅館のような対応もできないしね。ただ湯だけは自慢、川原に下りてみればわかりますよ。足元から湯が湧いているから」
気さくな笑顔が迎えてくれた。
かたわらのソファーでは、気持ち良さそうに猫が昼寝をしている。
本館と別館をつなぐ渡り廊下から、時折、涼やかな風が流れ込んでくる。
ゆったりと過ぎる贅沢な時間の経過を楽しめそうだ。
さっそく、その自慢の湯を堪能することにした。
露天風呂は白砂川の川原にある。
長い長い階段の廊下を降り、サンダルに履き替えて戸外へ。
さらに、うっ蒼と生い茂る木々のなかを下る。
自然石を敷きつめた川沿いの露天風呂が2つ。
女湯の奥に源泉の湧出場所があり、勢いよく白い湯気を吹き上げている。
熱めだが、肌をサラリと滑り落ちるやさしい湯である。
湯舟から眺める渓谷美も、紅葉の時季なら、なお絶景のことだろう。
コバルトブルーの川面からはるか上方に、国道に架かる橋が見えた。
あらためて深い谷に抱かれた秘湯に浸かっていることを実感した。
●源泉名:第1号源泉
●湧出量:測定せず(動力揚湯)
●泉温:71.2℃
●泉質:ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物温泉
<2004年11月>
Posted by 小暮 淳 at 12:28│Comments(0)
│源泉ひとりじめ