2020年02月20日
源泉ひとりじめ(16) とろんとした湯が、ゆっくりと滑り落ちた。
このカテゴリーでは、ブログ開設10周年を記念して、2004年4月~2006年9月にわたり 「月刊ぷらざ」(ぷらざマガジン社) に連載 (全30回) されたエッセー 『源泉ひとりじめ』 を不定期にて掲載しています。
※地名および名称は連載当時のまま表記し、その後変更があったものは訂正を加えました。尚、現在は休業もしくは、すでに廃業している宿もあります。
癒しの一軒宿(16) 源泉ひとりじめ
塩河原温泉 「渓山荘」 川場村
「あっ、思い」
手ですくって、そう思った。
実に存在感のある湯だ。
湯舟から出した腕の表面を、ゆっくりと滑り落ちて行く。
源泉名に、いつわりのない 「美人の湯」 である。
昔から 「かっけ川場に、かさ(皮膚病) 老神」 と言われるほど、良質の温泉が湧き出ていた地である。
知られざる名湯に、めぐり合えた。
ペットも泊まれる宿と聞いて、少なからず危惧をしていた。
何を隠そう、私は無類の犬嫌いなのである。
でも、それは杞憂だったようだ。
ワンちゃんは別館、人は本館という配慮は、純粋にに温泉を求めるものには嬉しい限りである。
「何もブームに便乗したわけではありません。これからの温泉旅館の形を提案しただけです。キーワードは “コミュニケーション” “アクセス” “コンタクト”。新しい情報を発信する場でありたい」
と、ご主人は、ペットの泊まれる宿という位置づけを否定する。
あくまでも顧客サービスの一環なのだと。
会員を募り、写真や水彩画の教室、ワインやビールのパーティー、絵画等の作品展、さらには著名人を招いてのトークショーなど、各種イベントを館内で開催している。
何はともあれ温泉旅館であるかぎり、湯を堪能したい。
数百年前から自噴しているという源泉は、代を替え、名を替え、今日まで守り継がれて来た良質の湯であるはずだ。
まずはヒノキで組まれた内風呂に身を沈める。
ぬるめだが、粘着性をもって肌に貼り付いてくる独特の湯感に、しばらく声がでなかった。
まるで片栗粉を溶いて流し込んだような、とろみ具合である。
それまで私が抱いていた単純温泉の概念を、完全に変えられてしまった。
露天風呂は、武尊(ほたか)石を配した野趣あふれる造り。
石段を下りる際は、濡れた足裏で踏むと、ぬるりと滑りやすいので注意が必要だ。
そんな所にも、この湯の温泉力を感じる。
せせらぎの音がする。
川瀬が近い。
そういえば昼間、訪ねる途中、薄根川に架かる橋の上から眼下の河畔に宿を見つけて驚いたことを思い出した。
「川場」 の地名にふさわしい宿である。
●源泉名:美人の湯
●湧出量:23ℓ/分 (自然湧出)
●泉温:27.8℃
●泉質:アルカリ性単純温泉
<2005年7月>
Posted by 小暮 淳 at 13:05│Comments(0)
│源泉ひとりじめ