2020年03月06日
源泉ひとりじめ(19) こっくりとした玉子湯に、身も心もとろけていった。
癒しの一軒宿(19) 源泉ひとりじめ
坂口温泉 「小三荘(こさんそう)」 吉井町(現・高崎市)
「子供の頃から、よく親に連れて来られたよ。あせもやおむつかぶれなら、1~2回入れば治ってしまう」 と、地元の常連客は言った。
今夏、海と山で酷使された肌には、いまだ痛々しく日焼けのあとが残っている。
開湯300年の霊験あらたかな 「薬師の湯」 の恩恵に、あやかることにした。
高崎市街地から車で、わずか20分の近距離。
のどかな里山に囲まれた県道沿いに、一軒宿はひっそりとたたずんでいた。
「あれっ、山が動いている!」 と思ったのは、どうも目の錯覚だったようだ。
竹林に覆われた裏山が、時おりの風に右に左にと大きく揺れている。
雲の切れ間から射した強い光に照らされて、借景は一瞬にして鮮やかなライトグリーンへと色を変えていった。
それにしても引きも切らさずに入浴客が訪れる宿である。
飛び込みの行楽客しかり、軽トラで乗り付ける地元客しかりだ。
昨今のブームで街中に現れた日帰り温泉施設が、例外なく近隣にも点在している。
しかし、無理やりボーリングしてくみ上げた “湯” と、何百年と湧き続けている “湯” が、同じであるわけがない。
その効能は、口コミで県外へまでも届いている。
「おかげさまで、ありがたいことです。本当に不思議な湯で、日によって微妙に色が変わります。にごることもあれば、透明な日もある。極端に色が変わると、数日中に天気が崩れますね」 と、4代目の泉主は語る。
私が訪ねた日の湯の色は、やや薄にごりの淡緑色をしていた。
こじんまりとしているが御影石を敷きつめた浴室は、清潔感にあふれ、気持ちがいい。
そして何よりも湯に重みがあって、温泉成分が満遍なく溶け込んでいる感じがする。
こっくりとしたゲル状の液体が、肌にまつわりついてくるようだ。
湯舟の中で体をさすると、ツルルンと手が滑るのが分かる。
なるほど、地元の人たちが「玉子湯」 と呼ぶはずである。
浴室から眺める窓の外では、やわらかい夕日を受けて色合いを変えた竹林が揺れていた。
●源泉名:薬師の湯
●湧出量:測定せず(自然湧出)
●泉度:17℃
●泉質:ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩冷鉱泉
<2005年10月>
Posted by 小暮 淳 at 19:51│Comments(0)
│源泉ひとりじめ