2020年03月22日
源泉ひとりじめ(23) 朝日の中で、浅間山が大きな背伸びをした。
癒しの一軒宿(23) 源泉ひとりじめ
奥嬬恋温泉 「干川(ほしかわ)旅館」 嬬恋村
旅には、つねに運がつきまとう──。
訪ねた日の天気は、あいにくの曇天。
鈍色(にびいろ) の雲に覆われて、空の高さも高原の広さもわからなかった。
ところが、一夜明けた朝。
カーテンを開けると、部屋の窓いっぱいに絶景が……。
「よしっ!」
目の前の浅間山に負けじと、思いっきリ背伸びをした。
暖簾をくぐると、石畳に導かれて、回廊のようなエントランスが続く。
フロントには見事な花梨の根こぶでできた大きな衝立(ついたて) が、主人のような顔で出迎えてくれた。
壁には柔らかな水彩で描かれたキャベツの絵が掛かっている。
嬬恋といえば、やはり高原キャベツだ。
絵手紙のように添えられた 「真心を包む一まい二まい」 の言葉が、やさしい気持ちにしてくれる。
あいにくの天気に、やや滅入っていたが、一枚の絵に心がほっこりと和んだ。
3年前にオープンした別邸の 「花いち」 は、半露天風呂付きの客室が4室。
この日は平日にもかかわらず、すべて満室だった。
若女将に通された本館の部屋で、旅装を解いて、さっそく湯浴(あ) みへ。
浴室に足を踏み入れた途端、ムッと温泉臭が鼻孔を突いた。
たっぷりと張られた湯舟は、全体に淡褐色をしているが、光が当たっている所は緑がかって見える。
マグネシウムとマンガンの含有量が多いのだ。
湯口に顔を近づけると、鉄臭がした。
扉を開けて、露天へ。
小ぶりながら板塀と石庭に囲まれた、落ち着きのある風呂だ。
毎度のクセで、ちょっと味見をすると……かなり塩辛い!
濃度の高い塩化物温泉である。
山間部で、この濃度の湯が湧くことは、非常に珍しいという。
外気の温度が、急に冷え込んできた。
ピーンと張った寒空に、星が二つ三つ……。
明日は晴れるだろうか、いや絶対に晴れるに決っている。
根拠もなく湯の中で、そう確信した。
●源泉名:葦乃湯
●湧出量:18.3ℓ/分 (動力揚湯)
●泉温:43.1℃
●泉質:ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉
<2006年2月>
Posted by 小暮 淳 at 14:59│Comments(0)
│源泉ひとりじめ