2020年05月22日
一湯良談 (いっとうりょうだん) 其の十一
このカテゴリーでは、ブログ開設10周年を記念した特別企画第2弾として、2012年4月~2014年2月まで高崎市のフリーペーパー 「ちいきしんぶん」(ライフケア群栄) に連載された 『小暮淳の一湯良談』(全22話) を不定期にて紹介しています。
温泉地(一湯) にまつわるエピソード(良談) をお楽しみください。
『地産地食が本来のもてなし』
数年前、海辺の民宿に泊まった晩に、エビやタイなどの海の幸に舌鼓を打っていたときだった。
私が群馬から来たことを知った女将さんが、こんなことを言った。
「温泉が好きだから、ときどき群馬へは行くのよ。でもね、あの紫色したマグロだけは、いただけないわ」
まさに痛いところを突かれた。
海なし県の悲しい性(さが)で、昔から群馬ではマグロの刺し身を出すことが、最大のもてなしだと勘違いしているのだ。
旅に出たら、その土地のものを食べるのが基本である。
とは言っても、決して美味しいものを食べることが目的ではなく、ふだん食せない地の物をいただくことに旅の意味があるのだと思う。
下仁田温泉(下仁田町) の一軒宿 「清流荘」 では、約7,000坪という広大な敷地に自家農園やヤマメ池、シカ園、キジ園、イノシシ牧場があり、米以外はすべて自給自足を行っている。
「“地産地消” なんて言葉がない頃から、うちは敷地内産地直送だよ」
と先代の清水幸雄さんが、畑仕事をしながら話してくれた。
2,400坪を超える農地では、名産の下仁田ネギやコンニャクをはじめ随時20種類の野菜が無農薬で栽培され、「地元の食材を提供するのが本来のもてなしの姿」 と昭和49(1974)年の創業以来、自家製食材にこだわった料理を提供している。
宿の名物 「猪鹿雉(いのしかちょう)料理」 は、この地に伝わる祝事には欠かせないハレの膳。
もちろん食材のイノシシ、シカ、キジは、すべて敷地内で飼育されている。
その他、下仁田ネギの天ぷらやコンニャクの刺し身、コイのあらい、ヤマメの炭火焼きにいたるまで、山と里の食材に徹した素朴な味は、箸を置くまで飽きることがない。
「本来の温泉宿の姿、日本人の心の中にある温泉のイメージを大切にしたい」
と語った2代目主人、清水雅人さんの言葉が心に残った。
<2013年3月>
Posted by 小暮 淳 at 10:20│Comments(0)
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