2020年06月18日
一湯良談 (いっとうりょうだん) 其の十九
『祖父との約束を守り継いだ湯』
高崎市吉井町、牛伏山のふもと。
明治時代には、すでに自然に湧き出ている鉱泉があったという。
「皮膚病や胃腸病に効く水として、長い間、地域で大切に守られてきた源泉です。『誰かが温泉宿をやれよ』 と地元の人たちから声が上がり、料理人だった祖父が昭和46(1971)年に宿を始めました」
と3代目主人の桑子済(とおる)さん。
「お前が高校を卒業するまでは頑張るから、後は頼む」
と話していた祖父は、済さんが高校2年の時に80歳で他界した。
祖父の亡き後は、祖母が一人で商っていたものの高齢のために、平成18(2006)年からは休業したままだった。
「父もいったんは宿に入りましたが、すぐに勤めに出てしまったため、祖父の遺言である私が継ぐしかありませんでした」
と、高校卒業後は県内の結婚式場や温泉旅館で働きながら、宿の再開準備をしてきた。
「知り合った時から主人は、『いつかは宿を開けたい』 と話していました。『やるなら最初から本気でやりましょう。もしダメだったら、その時は2人で勤めに出ればいい』 って、だいぶ私が背中を押しちゃいました」
と笑う女将の真澄さん。
高崎市の飲食店でアルバイトをしていいる時に済さんと出会い、20歳で結婚した。
結婚後3年間は、真澄さんの実家に身を寄せながら、2人で再開に向けて施設の設計や資金繰りなどを話し合ってきた。
昨年6月、本館の新築と宿泊棟の改築をし、6年ぶりに湯端温泉 「湯端の湯」 の営業を再開した。
本館の1階には内風呂と日帰り入浴客用の休憩室を兼ねたカフェスペース、夏にホタルが観賞できるウッドデッキのテラスを設置した。
ネットによる口コミで噂が広がり、すぐにかつての常連客や温泉ファンが全国からやって来たという。
リニューアルオープンから4ヶ月後の今年10月、祖母は90歳で天寿をまっとうした。
誰よりも宿の再開を喜んだ人だった。
きっと遠い空から祖父と一緒に、孫夫婦の奮闘ぶりを見守っていることだろう。
<2013年11月>
Posted by 小暮 淳 at 14:19│Comments(0)
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