2020年08月23日
温泉考座 (21) 「いい温泉より好きな温泉」
私は平成21(2009)年からNHK文化センター前橋支社が主催する 「野外温泉講座」 の講師をしています。
この講座は毎月1回、JR前橋駅と高崎駅からバスを出して、群馬県や隣県の温泉地を日帰りで訪ねます。
よく 「どんなことを教えているのですか?」 と聞かれますが、一切、難しい話はしていません。
そもそも温泉は学ぶものではなく、楽しむものです。
歴史がどうの、泉質がどうの、効能がどうのという話は最小限にして、それよりも “いかにして温泉を楽しむか!” について、受講生たちと一緒に話し合い、体験するようにしています。
たとえば、「今日の温泉は、男性的な湯でしたか? 女性的な湯でしたか?」 と、浴感を話し合います。
「筋肉質の男に羽交い絞めされているようだった」 とか、「絹の衣を身にまとっているようだった」 など、その人の主観を大切にしています。
それは、なぜか?
この主観にこそ、私が、この講座の講師を引き受けた一番の理由があるからです。
言うならば、“自分の好きな温泉探し” のお手伝いをしたいのです。
今の時代、テレビでもネットでも、あり余るほどの情報が氾濫しています。
「どうせ行くなら、いい温泉に行きたい」 という気持ちは分かるのですが、せめて私の講座では、“いい温泉” というカテゴリーから抜け出して、一つでも多くの “好きな温泉” に出合ってほしいのです。
群馬県内には約100ヶ所の温泉地があり、約460本もの源泉が湧いています。
その一つひとつが、泉質も温度も異なります。
サラリとした軽い湯もあれば、トロリと肌にまとわりつく重い湯もあります。
無色透明に澄んだ湯もあれば、乳白色や茶褐色ににごった湯もあります。
群馬には、どんな湯があるのだろうか?
そして自分は、どんな温泉が好きなのか?
毎月、温泉探しの旅を楽しんでいます。
「この間の温泉が気に入って、あれからまた家族を連れて行ってきましたよ」
受講生から、そんな話を聞くと、「ああ、この講座の講師をやっていて良かった」 と冥利に尽きるのです。
<2013年9月11日付>
Posted by 小暮 淳 at 12:00│Comments(0)
│温泉考座