2020年08月26日
温泉考座 (22) 「本当の “ごちそう” とは?」
海辺の民宿に泊まった晩のこと。
新鮮な海の幸に舌鼓を打っていた時でした。
私が群馬から来たと知った女将が、こんなことを言いました。
「温泉が好きだから、ときどき群馬へは行くのよ。でもね、あの紫色したマグロだけは、いただけないわ」
まさに、痛いところを突かれました。
海なし県の悲しい性(さが)で、昔から群馬では、マグロの刺し身を出すことが最高の “もてなし” だと勘違いしているのです。
旅に出たら、その土地の物を食べるのが基本です。
群馬にも、おいしいものが、たくさんあります。
でも旅の目的は、決して、おいしいものを食べることではありません。
ふだん食べられない地(じ)の物をいただくことに、旅する意味があるのだと思います。
下仁田温泉(下仁田町) の一軒宿 「清流荘」 では、約7,000坪という広大な敷地に、自家農園やヤマメ池、シカ園、キジ園、イノシシ牧場があり、米以外は、すべて自給自足をしています。
「地産地消なんて言葉がない頃から、うちは敷地内 “地産地食” だよ」
と先代の清水幸雄さんが、畑仕事をしながら話してくれたことがありました。
2,400坪を超える農地では、名産の下仁田ネギやコンニャクをはじめ、随時20種類以上の野菜が無農薬で栽培され、創業以来、「地元の食材を提供するのが本来のもてなしの姿」 と、自家製食材にこだわった料理を出しています。
宿の名物の 「猪鹿雉(いのしかちょう)料理」 は、この地に伝わる祝い事に欠かせない郷土料理です。
もちろん食材のイノシシ、シカ、キジは、すべて敷地内で飼育されています。
その他、下仁田ネギのかき揚げ、コンニャクの刺し身、コイのあらい、ヤマメの炭火焼きなど、自家製で手作りの山と里の料理が並びます。
「ごちそう」 という言葉は、大切な人のために走り回って、おいしい物を探すことから 「ご馳走」 の字が当てられたと聞いたことがあります。
海に行ったら海の物を、山へ行ったら山の物を。
奇をてらうことなく、土地の物を 「ご馳走」 することが、本来の “もてなし” の姿だと教えられました。
<2013年9月18日付>
Posted by 小暮 淳 at 12:20│Comments(0)
│温泉考座