2020年10月09日
温泉考座 (35) 「消えた湯けむり」
外気の冷え込む冬場に温泉地へ行くと、旅館の浴室や道路脇の側溝から、もうもうと湯けむりが上がる光景が見られます。
「ああ、温泉に来た!」 と実感する瞬間です。
これが温泉情緒というものでしょう。
浴室のドアを開けると、真っ白で中が何も見えなかったという経験はありませんか?
源泉かけ流しの温泉だと、浴槽内の湯が外気に触れて温度が下がらないようにと、窓を閉め切っている場合が多いからです。
また温泉には多くの成分が含まれているため、水道水を沸かした家庭の風呂より濃厚な湯けむりが上がります。
温泉の泉質によっては、この湯気を吸い込むことにより、ぜんそくなどの症状を緩和する効能もあります。
ところが最近は大型の温泉施設へ行くと、真冬でも湯けむりのない浴室に出合うことがあります。
こんな時、私は 「あっ、これはヤバイぞ!」 と身構えてしまうのですが、何の疑問も持たずに入っている人がほとんどのようです。
では、なぜ湯けむりが消えてしまうのでしょうか?
それは塩素消毒をしているからです。
塩素を入れると、本来の温泉成分が化学反応により失われてしまいます。
せっかくの温泉が、水道水に近くなってしまうということです。
また塩素はガス化して浴室に充満するため、当然、換気が必要となります。
もう、お分かりですね。
大型の温泉施設に行くと、浴室の壁や天井で大きな換気扇がフル回転している意味が。
本来なら湯けむりを抜いてしまうことは、浴槽の湯を冷ましてしまう行為ですから湯守 (ゆもり) は嫌います。
しかし、入浴客の健康管理のためには、湯けむりの強制排気は仕方ないことなのです。
その代わり浴槽内の湯は、循環装置によって常に一定の温度に保たれています。
もし、こういった温泉に出合ったら、大量の塩素が投入されている証拠ですから、湯上りにはシャワーで体を洗い流すことをお勧めします。
乾燥肌やアトピー性皮膚炎など肌の弱い人は、特に注意が必要です。
<2014年1月15日付>
Posted by 小暮 淳 at 10:05│Comments(0)
│温泉考座