2020年10月11日
温泉考座 (36) 「湯守のいる宿」
何軒も宿のある温泉地では、一つの源泉から宿へ分湯している場合が多いので、必ずしも宿の主人が湯の管理をしているとは限りません。
でも、“一軒宿” と呼ばれる小さな温泉地のほとんどは自家源泉を保有しているので、温泉が湧出地から宿の浴槽へたどり着くまでの一切の面倒を宿の主人がみています。
いわゆる湯守 (ゆもり) のいる宿です。
いい湯守は、湯に手を加えることを嫌います。
自然に湧いた湯を、動力を使わずに、そのまま浴槽まで流し入れたいからです。
これを 「自然流下」 といいます。
しかし、浴槽内の湯の温度は、季節や天候により微妙に変化します。
ですから湯守は、窓の開閉や注ぎ入れる湯の量を調節することにより、一年を通じて適温を保っています。
法師温泉 (みなかみ町) の一軒宿 「長寿館」 は、全国でも1%未満という浴槽直下から源泉が湧く珍しい温泉です。
足元湧出温泉は、湯が空気に触れる前に直接人の肌に触れるため、熱過ぎても、ぬる過ぎても存在しません。
ちょうど41~42度の適温が湧出する、まさに “奇跡の湯” です。
6代目主人の岡村興太郎さんが、湯守の仕事について話してくれました。
「温泉とは、雨や雪が溶けて地中にしみ込み、何十年もかけてマグマに温められて、鉱物を溶かしながら、ふたたび地上へ湧き出したものです。でも地上へ出てきてからの命は、非常に短い。空気に触れた途端に酸化し、老化が始まってしまう。湯守の仕事は、時間との闘いです。いかに鮮度の良い湯を提供するかなんです」
そして、こんなことも言いました。
「湯守は、温泉の湧き出し口 (泉源) だけを守っていればいいのではない。もっとも大切なのは、温泉の源となる雨や雪が降る場所、つまり宿のまわりの環境を守ることです」
周辺の山にトンネルや林道などの土木工事をされれば、湯脈が分断される恐れがあります。
またスキー場やゴルフ場などができれば、森林が伐採されて山は保水力を失い、温泉の湧出量が減少するかもしれません。
いい温泉は、いい湯守により代々守り継がれているのです。
<2014年1月22日付>
Posted by 小暮 淳 at 11:44│Comments(0)
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